【前編】ワークライフバランスを考えた多様性ある働き方『今なぜ「働き方改革」が必要なのか〜三菱UFJリサーチ&コンサルティング〜』

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矢島洋子
2016年8月に発足した第3次安倍第2次改造内閣で「働き方改革担当大臣」という新ポストができるなど、このところ日本人の働き方を大きく見直す機運が高まっています。個々の企業においても「ダイバーシティ」というキーワードで、多様性のある働き方への取り組みが積極的に進められています。

こうした動きの背景や展望を、三菱UFJリサーチ&コンサルティングで少子化対策や男女共同参画、ワークライフバランスを長く調査・研究されてきた共生社会室長・主席研究員の矢島洋子氏に伺いました。

従来の「男性型」働き方ではダメな理由とは

Q:ダイバーシティという言葉はいつから使われるようになったのでしょうか。

A:ダイバーシティ推進というのは、多様な属性や多様な価値観を持った人を受け入れられる組織や社会への変革を推進する施策と捉えています。日本では、近年、企業経営や人材活用策として注目されています。これまで企業の中で活躍できていなかった人たちを受け入れられる環境を整えて、組織の活性化につなげようとするものです。ダイバーシティという言葉が、国の施策として使われだしたのは、2012年から経済産業省が選定し始めた、「ダイバーシティ経営企業100選」あたりからでしょう。以前から、障がい者、女性、外国人、高齢者など、それぞれの領域ごとに、企業への積極的な受け入れや活躍促進のための施策や企業の取組は行われていましたが、次第にそれらの領域を包括する概念として、「ダイバーシティ」という言葉を使う企業が増えてきました。女性や高齢者などが企業で就業継続し、能力発揮するために必要な取組みは様々ですが、共通しているのは、これまでの正社員の画一的な働き方や、「常に仕事が第一優先の人でないと働けない」という考え方を変えていく必要があるということです。

Q:近年は、企業や国が大変危機感を持って、ダイバーシティ推進に取り組んでいるように感じられます。

A:欧米諸国では、マイノリティーの参画という意味で、ベースに人権問題という考え方が強くありますが、日本の場合は、少子高齢化による労働力不足が直接の推進要因となっています。1990年頃からスタートした少子化対策という文脈でまず取り組まれたのは保育所整備ですが、同時に当初から有識者会議などでは、夫婦間の性別役割分担を前提とした男性社員中心の長時間労働ありきの働き方を見直す必要があるといった指摘はなされていました。ただ、「男性の働き方」を変えることは抵抗も強く、また、「男性の働き方」が企業の「スタンダードな働き方」になってしまっている中で、その「スタンダード」を変えるということは難しいことでもありました。日本の人口動態をみると15〜64歳の生産年齢人口は1995年の8726万人をピークとして減少に転じています。しかし、バブル崩壊後の景気低迷により労働力の過剰感が強まったことで、多様な人材確保のための大きな変革という動きにはなりませんでした。また、2008年をピークに日本の総人口が減少に転じた時も話題にはなりましたが、ちょうどリーマンショックがあり、またしても、対策を打つ機会を逸したといえます。

それが、景気の高揚や2020年東京オリンピック需要もあって、企業の労働力需要が高まり、昨年2015年あたりからまた若者をしっかりと採用していきたいという企業が増えてきました。ですが、少子化の影響もあって今は明確な売り手市場です。若者自身もそれを自覚しており、いわゆる大企業でも新卒採用にはたいへん苦労しているのです。そうした若者に対して魅力ある職場であるとアピールするために、また、すでに採用している女性や高齢者にも長く働き、能力発揮してもらう意味でもダイバーシティ推進に着手せざるを得なくなったわけです。

Q:必要に迫られたわけですね。

A:企業が危機感を抱いているのは、若者を採用できないだけでなく、就職氷河期時代に採用を手控えていたため、今の30代半ばくらいの層が非常に薄いこともあります。ちょうど職場で管理職になる手前の層ですね。一方、育児休業から復職後の短時間勤務制度の普及などにより妊娠・出産時の就業継続が可能となってきた女性社員がこの層にかかってきています。こうした女性社員に就業継続するだけでなく、キャリア形成支援をすることで、できれば管理職になってもらいたいという企業のニーズが高まっています。また、結婚・出産で辞めてしまった女性たちの再就職を積極的に進める企業も出てきています。子育て中のこの世代は、入社以来仕事でITなども活用してきた世代なので、今、会社に戻っても比較的、仕事にキャッチアップしやすく、企業も期待をしています。また、先にお話ししたように、社内で子どもを持ちながら働く環境が整ってきたことで、子育て中の女性の中途採用を受け入れやすくなった、ということもあります。

Q:多様性という意味では、女性以外にもありますね。

A:そうですね。日本の企業で、今一番取り組みが行われているのは女性ですけれど、シニア層も雇用延長で定年が65歳までに引き上げられています。その層が体力面での不安などをカバーしながら、これまでの経験を活かしつつ、若い世代とうまく役割分担したり技術継承しながらしっかり働いていける環境整備もこれから必要です。外国人も、従来は外国人研修制度や技能実習制度などを活用した実習生や留学生のアルバイトのような短期雇用が主でしたが、最近はいわゆるホワイトカラー人材の長期雇用にも注目が集まっています。

貴重な労働力である若者に対して、魅力ある企業となるために

矢島洋子
Q:若者が売り手市場だということですが、彼らに選ばれるのはどのような企業なのでしょうか。

A:今の若者の多くは、「働き方」を重視しています。従来人気のあった業界でも、残業などの長時間労働や転勤の多いところは避けられる傾向にあります。男女問わず、家庭や子どもを持ってもワークライフバランスがはかれる職場環境かどうかが大切です。その背景にあるのは価値観の変容で、大切なのは子育てのほかにも、趣味に没頭したり、友人と交流するなど自分の時間を持つ、ということです。SNSで友人たちとつながったり、ネットでゲームをすることも生活の一部です。企業での仕事一辺倒ではない生き方を嗜好しており、それを今、多くの企業が実感しているところだと思います。
バブルが弾けた1990年以降に生まれた世代は、生まれた頃から景気は良くないし、父親世代がリストラに遭うなどの厳しい状況も見ていて、たくさん働けば報われるというわけではないということを目の当たりにしています。お金を使わずに楽しむ生活も身につけている。そういう意味でも、人生を会社に賭けてハードに働いて出世するというモデルを目指さなくなる人が増えるのは、必然かもしれません。

Q:高い地位や報酬を目指すのではなく、生活を楽しむことに価値を見出すということですね。

A:それともうひとつ、社会貢献の視点も大きな関心事ですね。2011年の東日本大震災の影響もあり、業種や規模に関わらず、社会に貢献する意義のある仕事をしたいという気持ちが特に若い人の間で高まっています。これまでも企業はCSRの一環での社会貢献活動は行ってきましたが、今、求められているのはそういうことよりも、本来の仕事、業務の中で社会に与える影響といった性質の貢献ですね。企業としては、自身の事業をそういった観点で見直してアピールしていくことが求められるでしょう。 また、社員にとっては仕事の中だけでなく、たとえば有休を使うなどしてボランティアを続けるなど、そうした時間の使い方ができる働き方を求める人も増えてきていると思います。

子育て、ボランティア、自己啓発・・・自分の時間も有効に使える職場環境を

矢島洋子
Q:実際に、多様性ある働き方を実現するために、企業ができるのは各種制度の整備でしょうか。

A:そうですね。まずは短時間勤務や在宅勤務、有休取得促進、定年延長といった制度面です。ですが制度を整えるだけではなく、大切なのは社員がそれを普通に使えるようになる風土づくりなんですね。今、安部内閣が提唱している「働き方改革」は子育て中に限らず社員全員が、長時間労働ありきではなく、休みをきちんと取れる働き方になることを目指しています。やはり一部の人だけが働く時間が短かったり休んでいたりという状況だと、その人は評価されにくくて、いづらくなり、本人や周りのモチベーションにも関わってきます。そうではなく、全ての社員の働き方、その会社でのスタンダードな働き方が変わることが、今いちばん注目されているのです。

Q:全員が、仕事一辺倒ではなく、自分の時間をいろいろに使えるということですね。

A:時間を使うのは趣味でも子育てでも、ボランティアでも良いですし、ライフワークを考えて、次の仕事に向けての自己啓発や副業といった選択肢もありますよね。そして、それは日本にとっての大きな可能性でもあるんです。
例えば、サンプリングした音源を使ってコンピューター上で歌を作るヤマハの「ボーカロイド」という音楽制作ソフトがあるのですが、これを使って、プロの作曲家ではない方たちが、仕事は他にありながら趣味で曲やアニメーションのミュージックビデオなどのコンテンツを作り、それが大きなマーケットに成長しました。 このように、日本で新しい仕事のアイデアや産業を生み出そうという時に、今までの仕事を完全に辞めて新しいことにトライする人だけがチャレンジできるというのでは、難しいものがあります。従来の仕事をしながらも、趣味の延長線上や何か可能性のある領域で活動していく人が増えれば、それが日本の中で次の重要な産業の芽となるかもしれませんよね。「ダイバーシティがイノベーションにつながる」という言い方は、今は従来の企業内のリストラクチャリングを中心に語られますが、今後は日本の産業構造の転換においても重要視されると思います。そういう余地を生み出すような働き方が、個人にのみならず、社会にとっても大切なのです。

Q:目の前の仕事で疲弊している場合ではありませんね(笑)。

A:会社で仕事をする人であっても、やはり目の前の自分の短期的な業績を上げるためだけに、自分の時間の全てを使ってしまっているのは良くありません。「自律的キャリア」という言い方をしますが、会社がキャリア形成のためにいろいろな経験や研修機会を与えてくれるのを待つだけではなく、社員一人ひとりが自分自身のキャリアを考え、自ら自己啓発に取り組んでいくことも大切です。その意味でも、時間の使い方は労働者にもっと裁量の余地を与えるものになる必要がありますね。

(プロフィール)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
政策研究事業本部 東京本部
主席研究員 共生社会室長
矢島洋子
1989年慶應義塾大学法学部卒業後、三和総合研究所(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの前身)に入社。
一般職としての入職だが、プロパーの1期生として活躍し、出産前後に一時離職し嘱託社員となる。復帰後子育てしながら働く中で管理職になる。2004年から3年間、休職を取得し任期付き任用で内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官として勤務する。2010年より中央大学大学院戦略経営研究科客員教授も務める。現在は、少子高齢化、男女共同参画の視点から、ダイバーシティ推進やワークライフバランスに関する調査・研究・コンサルティングを行っている。セミナー・講演も多数実施。



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