【前編】システムキッチンで暮らしが変わる〜株式会社日建ハウジングシステム〜

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これまで新しいマンションのあり方を追求してきた日建ハウジングシステムは、三井不動産レジデンシャル、タカラスタンダード、富士工業の三社との共同開発で、キャスターで可動するキッチン「Imagie kitchen」を開発しました。そこで、日本でキッチンのあり方はどう変わってきたか、また、「Imagie kitchen」開発に至った背景について、日建ハウジングシステム設計監理部部長の吉田和弘氏(写真右)とlid研究所副所長の渋谷篤氏(写真左)に伺いました。

「台所」から「ダイニングキッチン」の登場へ

Q:かつての「台所」の役割とはどのようなものだったのでしょうか。

渋谷:昔は、台所は家の中で表舞台にあるものではありませんでした。古い家では、キッチンは家の中心にあるものではなく、北側の暗い家の端のほうにあるのが一般的でした。台所は水と火を使って料理をするためだけの場所としての機能しかありませんでした。台所からキッチンへ変化を遂げたのは、戦後の住宅難を解消するため、大量供給型のいわゆる「団地」が登場した1950年代といわれています。

Q:1950年代に公団で「ダイニングキッチン」が登場したことによって、キッチンの位置づけはどのように変わったのでしょうか。

渋谷:例えば、漫画やアニメの『サザエさん』では、フネさんとサザエさんがキッチンにいて、井戸端会議の世界となっていますが、波平さんやマスオさんは横の部屋にいて、キッチンに入って会話に加わることは、ほとんどありません。ダイニングキッチンになったことで、コミュニケーションをとる場所として、キッチンが表舞台に出てきました。つまり食事をするところと料理をするところが同じ空間になったことが、キッチンの位置づけの大きな転換点であったと思います。ダイニングキッチンが組み込まれた公団の田の字プラン(※)の登場は、集合住宅の歴史の中でも大きな転換点です。

吉田:戦後のマンション大量供給を目指した標準プラン・公営住宅51C型(1951年)にはじまる日本家屋(木造)住宅を由来とするのが「田の字プラン」です。この当時の新しい住まいの形が発展し、今のマンションのルーツといえ、現在の片廊下型のマンションもある意味、「田の字プラン」と呼ばれています。

※田の字プラン/居室が上下左右と「田の字」のように振り分けられたプラン。

多種多様化していくキッチンのあり方

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Q:昨今、住まいにおけるキッチンの役割は、どのように変貌を遂げているのでしょうか。

吉田:マンションでは、先ほどの公営住宅の話で出た「DK(ダイニングキッチン)」から、「LDK(リビングダイニングキッチン)」が主流になりました。「DK」はダイニングとキッチンが一緒の場所にありますが、奥まったところにあり、少し暗いイメージでした。裏舞台、バックヤード的位置づけであったキッチンが、「DK」になって一家団らんという形で少し表舞台に出てきて、明るい「LDK」となることで、気持ちの良いところで食事ができるようになりました。
キッチンには、オープンキッチンとクローズドキッチンがありますが、夫婦と子ども2人といった一般的なファミリーの住まいでは、子どもを見ながら食事の支度ができる「ながらキッチン」の形態が一般的なマンションの形として広まりました。対面式キッチンからもう一歩踏み込んで、壁も取り払ったのが「オープンキッチン、アイランドキッチン」の形態です。そうなると、キッチンはお客様を呼んだ時にも、裏ではなく表に出ているので、デザインなどへの要望が高まり、「見せるキッチン」としても大きく変わってきたといえます。

渋谷:キッチンは機能中心であったものが、「アピアランス=見え方」を重視する時代になりました。

吉田:その流れでキッチンのカスタマイズやオーダーキッチンが2000年過ぎごろから広まって、さらに進化していきました。ある意味、システムキッチン自体は完成形になったと思います。

Q:今のキッチンはどのような位置づけとして捉えられるのでしょうか。

渋谷:人それぞれの価値観に合わせて使える時代になったと思います。ファミリーマンションに住む人は、お母さんが専業主婦で、子どもが1〜2人いて、お父さんが働いているといった、昭和の典型的な中流家庭のイメージがあるかと思います。しかし、今の時代では、専業主婦ももちろんいますが、外で働いている人もいて、キッチンを使うのは朝と夜だけだったり、夜も使わなかったりします。DINKSで共働きの場合は、キッチンがびっくりするくらいきれいなので、「なぜこんなにきれいなのか」と聞いてみると、「使わない」と答えが返ってくることもあります。

これまで、「食が家にある」という前提で住宅をつくってきましたが、集合住宅に関していうと、その前提が変わってきています。「食を家に持ち込まない人」も一定数いて、マイノリティかもしれませんが、時代とともに増えてきていることは事実です。
一方で、キッチン中心の生活をする人もいます。ホームパーティーを頻繁に行う生活をする人は、キッチンが家のど真ん中にあって、キッチンが主役です。そんな人が普通にいるのも最近の傾向です。

吉田:個々のライフスタイル自体が多種多様になって、ひとくくりにできないようになってきていることを実感します。だからこそ、設計者としては、新しいことへのチャレンジを含めやりがいがあるともいえます。

キッチンを動かせれば住宅のあり方が変わる

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Q:キッチンの役割が大きく変わってきた中、斬新な試みともいえる、キャスターで可動するキッチン「Imagie kitchen」を三井不動産レジデンシャル、タカラスタンダード、富士工業と共同開発に至った背景を教えてください。

渋谷:実はもともと、キッチンを動かそうと考えてはいなかったのです。三井不動産レジデンシャルで画一的な住戸プランにこだわらない「未来の住戸プランを考える」というテーマで検討を進めることとなり、当社がそのプロジェクトに専門家として参加することになったことがきっかけです。

初めの数ヵ月でブレストを行いましたが、ユニークな意見がたくさん出ました。例えば「今のマンションは至れり尽くせり過ぎる」、「こんなに収納はいらないから、この街に○○万円で住めるように全部取っ払って欲しい」、最近流行りのシェアハウスのように、「風呂は邪魔、シャワーが何個かあれば良い。キッチンも何台か大きいのが共同であって使う時だけ降りていけば良い」といったものです。

ちょうどその時に、これまで可動家具はあっても扉を付けたものはなかったのですが、「Kanau Shelf」という下部にキャスターのついた「可動家具+扉」で仕切るというものを三井不動産レジデンシャルと当社で新規開発し、実際のプロジェクトで導入するところまで決まっていました。これを使うことに加え、さらに水廻りを動かすと、間取りのバリエーションが劇的に増え、ユーザーの好みに合ったプランが実現しやすくなるのでは?という話になりました。お風呂とトイレを動かすのは技術的にもハードルが高い。洗面台は動かす必要があるのか?という議論の中で、「キッチンを動かすのはどうなのか?」という目標が確定しました。

「キッチンを動かせれば、住宅のあり方が変わるのではないか」、「キッチンなどの水廻りのプランニングで、住宅のプランは決まってしまうので、そこから解き放つことはできないのか」ということになったのです。その後の展開につきましては、後編でご紹介します。

(プロフィール)
株式会社日建ハウジングシステム
設計監理部 部長
吉田和弘
入社以来、ハイグレード・大規模・超高層を中心とした集合住宅、再開発プロジェクト、シニアレジデンスに至るまで幅広い分野の設計を担当。グッドデザイン賞受賞(2008年、2014年)。現在は、大規模再開発プロジェクトを中心とした業務に従事している。また広報室室長も兼務、SUUMO記事監修など含め幅広く活動中。一級建築士、日本建築家協会会員。

株式会社日建ハウジングシステム
設計監理部 副部長兼lid研究所 副所長兼I3デザイン室 室長
渋谷篤
入社以来、民間分譲・賃貸集合住宅や再開発事業の設計監理業務に従事。国土交通省の各種モデル事業採択、グッドデザイン賞(2010年、2011年)、パッシブデザインコンペ2014特別賞等受賞。現在は、2016年より新設されたlid研究所(life innovative design laboratory )にも在籍し、従来の設計監理業務に加え、集住施設の知識をベースにした「設計」の枠を超えた新規ビジネスへの挑戦や、クライアントの研修、大学講師、各種マニュアル作成等幅広い活動を行っている。一級建築士、CASBEE評価員、日本建築学会会員。

株式会社日建ハウジングシステム
1970年に日建設計より分社・独立。日建グループの一員として、集住施設の計画や設計、監理および集住に関する調査研究を行う設計事務所。新たに「住まいの価値創造企業」として、次の時代に向けた新規事業にも取り組んでいる。
https://www.nikken-hs.co.jp/ja

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