【後編】ワークライフバランスを考えた多様性ある働き方『ダイバーシティ実現のカギとなるのは〜三菱UFJリサーチ&コンサルティング〜』

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矢島洋子
「ダイバーシティ」というキーワードのもと、多くの企業で進められている多様性ある働き方への取り組みについて、その背景や展望を前編で伺いました。後編では、女性管理職の育成や介護と仕事の両立支援を中心に、個別の問題点とその現状、対応策などを三菱UFJリサーチ&コンサルティング社会政策部主席研究員・共生社会室長の矢島洋子氏に引き続きお聞きします。

若者が目指したくなるような、ハッピーな働き方を管理職にも

Q:ダイバーシティの取り組みのひとつである、女性活躍推進について教えてください。

A:セミナーでもよくお話するのですが、管理職のみなさんが女性の部下を育てる上で大切なことが3つあります。ひとつは、未婚の女性に対して、男性社員と同じように仕事を割り振れるかですね。以前に比べれば良くなってきてはいますが、それでも新人ではなくリーダー層くらいになると管理職によってだいぶ差が出ています。ふたつ目は、子どもを持つ女性に対して、短時間勤務や残業免除であっても、成長できるような仕事を与えられるかです。これらが課題となっている原因は、上司の側に、女性を管理職に引き上げるために育てようという認識が欠けていることと、時間制約のある部下のマネジメントのノウハウを持っていないことにあります3つ目は、管理職自身が生き生きとハッピーに働けているかという点です。というのは、女性が管理職を目指したがらない理由のひとつに、現在の管理職の働き方が厳しすぎて、管理職が疲弊しているということがあります。若い男性社員から見ても同様ですので、これは大きな問題です。

Q:今の管理職は、以前に比べて忙しくなっているのでしょうか。

A:そうですね。プレイングマネジャーが増えていて、現場の仕事とマネジメントに携わらなければならないこともありますし、管理職の階層が整理されて減らされている企業も多いので、その分、役割が広がっていたりもします。また、マネジメントの役割が以前に比べると、コンプライアンスや多様な部下の管理なども加わって、より複雑になっています。 それに、一般社員の残業を減らそうとすると、自分がカバーしなければというので、そのしわ寄せが管理職にきているという皮肉な面もあるのです。それを解消するためにも、管理職も含めて企業内全員の働き方の見直しを進めることが不可欠です。

Q:人事評価制度との関わりはどうでしょうか。

A:子どものいる女性について、定量的な評価をすると、仕事との両立が厳しくなると考えられがちですが、むしろ評価が曖昧なことによるデメリットのほうが大きいでしょう。なぜなら、評価が曖昧だと、時間で評価されがちになり、フルタイムではない、残業ができないというだけでネガティブな評価が付けられやすいからです。成果に対する評価基準が明確になっていれば、短時間であっても結果を出せているとか、効率的に働いているなど通常勤務と人との間で納得感のある評価がなされやすいと思います。

職種で言えば、対外的な営業などの業務は定量的な結果が分かりやすいですが、管理部門や事務職は評価が曖昧にされがちです。これは、女性だけの問題ではなく、日本のホワイトカラーの生産性が低いと言われている原因のひとつでもあると思います。

ダイバーシティマネジメントに話を戻すと、多様な働き方をする人たちについて相互に納得感のある評価をするためには、組織目標の設定が重要になってきます。短時間勤務の人は、勤務時間と共に給与も減りますので個人目標も減る場合が多いのですが、短時間勤務者の個人目標が減っても組織目標が減らなければ、周囲のしわ寄せが大きくなります。日本企業の組織目標は、現場の人員体制などのリソースに基づかずに上から降ってくるものや前年比で設定されるものが多く、こうした組織目標の設定方法が、女性活躍の阻害要因になっているだけでなく、長時間労働の要因となっています。

Q:女性管理職は、順調に増えていくでしょうか。

A:女性活躍推進法により2016年4月から、301人以上の労働者を雇用する企業では、自社の女性の活躍状況を把握して課題を分析すること、それに基づき行動計画を策定して届け出ることなどが求められています。この計画では、女性活躍に関する数値目標を設定することも求められていますが、その目標として、女性管理職に関する登用目標を立てる企業が多くなっています。管理職登用を進める方策としては、管理職手前にいる女性社員やその上司への研修が多く行われるようになっています。これまで女性は、長く勤めていても、配置されている部署が偏っていたり、男性より異動経験が少なかったり、チャレンジングな仕事が与えられてこなかったという状況が多くあります。総じて、管理職になるという期待を会社や上司からかけられてこなかったと感じていたり、自分自身でも、管理職になる準備ができておらず自信が持てなかったりという女性が多いのが実状です。

そのため、当面の策として、女性社員やその上司に研修などの形で働きかけて、キャリアの展望を持つために必要な業務経験を検討したり、自分自身やロールモデルの先輩を見つめたりする中で自信を持ってもらおうという取り組みをしているわけです。今後、入社時点から男性と同様に女性も上司から育成対象として期待をかけられ、働き方に関わらず成長が期待できる仕事が与えられ適切に評価されるようになっていけば、こうした「女性のみを対象とした」研修自体がいずれ不要になるのではと思っています。そうでないと、女性はこうした研修をしなければ管理職になれないといったネガティブな見方が職場に広がってしまいかねません。女性向け研修や女性の採用や登用に関する特別な対応はあくまでも過渡的な措置として短期間で終わらせ、男女同じようにチャンスや経験が得られるダイバーシティ環境を整えていくことが大事です。女性活躍推進法は10年間の時限立法です。この期間に女性のみを対象とした取り組みばかりに目が向いた企業と、基本的なダイバーシティ環境整備に取り組んだ企業とでは、10年後大きな差がついていることでしょう。

思いがけず身に降りかかる、介護や自身の病気に備えるには

矢島洋子
Q:少し視点を変えて、仕事と介護の両立についてはいかがでしょうか。

A:親の介護に直面するのは主に40代50代の社員で、その割合は、その世代の正社員の1割強という調査結果があります。一般的な風潮としては、親に介護が必要になったら、ヘルパーなどに頼るのでなく、子どもである自分がなんとかすべきで、それには仕事を辞めないと対応できないという考え方がまだまだ根強いですし、この中高年世代は今までに自分や家族のために休暇を取るということをしてこなかった層でもあります。企業側からの相当強い発信がないと、彼らに仕事と介護の両立をさせることは難しいと思います。

積極的に介護との両立に取り組んでいる企業が行っているのは、まず「辞めないでほしい」というアピールです。働き方を変えてでも続けてもらうほうが、会社としてはありがたいのだと強く発信することが大事なのです。そして、介護サービスについての情報提供をして、その活用を促すことが必要ですね。介護保険制度やその他の自治体のサービスなどを使いながら、1日は半日単位の休暇や残業免除、短時間勤務制度などを活用して、社員が、働きながら介護をマネジメントするプランを立てるよう促すことが大事です。

Q:職場全体の理解も必要ですね。

A:それが、働き方改革の本丸ですね。つまり、介護だから子育てだからということで制度に守られて、一部の人たちだけが働き方を変えるのでは続きません。そうではなく、通常の、その会社の常識となっているスタンダードな働き方が変わることが求められています。遅くまで残業するような働き方が当たり前の職場では、周りの人もそれにつられますし、事情のある人が肩身の狭い思いをすることになります。

介護や子育てではなくても、働く本人の事情が大きく変わることに、病気という問題もあります。最近、がん治療と仕事の両立についての調査を行っていますが、実情としては、告知を受けたショックで、会社にも相談せずに辞めてしまう人が多いようです。がんは治る病気になってきており、入院治療から通院治療の割合が高くなってきています。40代や50代であれば、治療費やその後の生活のためにも働き続けなければなりません。辞めると決めてしまう前に、まず会社に相談すべきですし、それには日頃から会社が、介護の問題と同様、がんに罹患しても働き方を調整しながら仕事を続けて欲しいことを社員に発信している必要があります。企業が多様性ある働き方を受け入れるというのは、こうしたことのためでもあるんですね。

制度運用で重要なことは、外部の目も入れながらの業務改善にある

矢島洋子
Q:実際に企業でダイバーシティの取り組みを進める時の問題点は何でしょうか。

A:私自身、現在数社のコンサルティングを行っています。業種はマスコミ・IT・製造業など様々ですが、取り組みの難しさは業種では差がないと感じています。でも皆さん、「当社の仕事は特殊だから難しい」とおっしゃるんですね(笑)。そこは実はあまり関係なくて、大事なのは明確に目標を立てられるか、皆でやろうという意思統一が図れるかなのです。

そのように「難しい」とおっしゃるのは大抵50代以上の管理職層です。多数派ではなくても、職場では声の大きい存在ですから、それを乗り越えて取り組みを進めるためには、一般社員の方たちにアンケートやヒアリング調査を行うなどして、現場の声を表に出していくようにします。また、実際にできそうなことをご自分たちの職場で話し合っていただいたりもします。ノー残業デーや有休の計画取得といった取り組みは取り入れやすいものですが、それを実効性のあるものにするためには、誰がどう働きかけるのか、どのようなカバー体制を取るのか、どんな業務が削減できそうかという具体的なアイデアを、個々の職場で検討し見つけていただく必要があるのです。ご自分たちだけでの話し合いだと、これまでのやり方に固執されがちですので、タイミングをみて私たちコンサルタントも参加させていただき、ここなら変えられるのでは、ここから手を付けてみませんかと提案しながら進めます。

Q:制度面などの形だけでなく、実際に働く現場が変わることが必要なのですね。

A:そういう意味では、制度を取り入れたり、取り組みを掲げたりする企業は多いですけれど、実際の運用やその結果には企業間で大きく差が出てきていると思います。現場で小さなことからでも全員で取り組みを継続していくこと、これまで当たり前と思われていた業務遂行方法にもメスを入れることが大事です。そのためには、これからの時代、従来職場を支えていた時間制約のない社員(特に男性社員)の割合が減り、何らかの事情により時間制約のある人が多数になるという認識が重要です。今は、一部、子育て中の短時間勤務の人がいれば、その人の仕事は軽くして、まわりの時間制約のない人たちがさらに頑張ってカバーすればよい、と考えられがちです。
しかし、時間制約のある人が多数となった職場では、時間制約のある人がその制約の中でどれだけ能力発揮できるか、成果を出せるかが、職場全体にとって大きな意味を持つようになります。時間制約の有無に関わらず多様な働き方で、それぞれが生き生きと能力発揮できる職場環境を作ること、そのためには、時間制約のない人も残業ありき・休暇を取らない働き方から脱却すること。それが、これからのダイバーシティマネジメントにおいて重要なポイントになると思います。

(プロフィール)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
政策研究事業本部 東京本部
主席研究員 共生社会室長
矢島洋子
1989年慶應義塾大学法学部卒業後、三和総合研究所(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの前身)に入社。
一般職としての入職だが、プロパーの1期生として活躍し、出産前後に一時離職し嘱託社員となる。
復帰後子育てしながら働く中で管理職になる。
2004年から3年間、休職を取得し任期付き任用で内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官として勤務する。
2010年より中央大学大学院戦略経営研究科客員教授も務める。現在は、少子高齢化、男女共同参画の視点から、ダイバーシティ推進やワークライフバランスに関する調査・研究・コンサルティングを行っている。セミナー・講演も多数実施。


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