【後編】日本における外国人留学生への生活支援とは〜独立行政法人日本学生支援機構〜

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前編では、20万人を超えた外国人留学生の中でも、従来多くを占めてきた中国・韓国・台湾の学生のほかに、ベトナム・ネパールといった国からの来日が急増している実情を教えていただきました。
後編では引き続き日本学生支援機構 理事の米川英樹氏に、留学生を受け入れる社会的意義や今後もこの増加基調が続くかどうかの見通しについて伺いました。

生活する中で、日本人の習慣や美徳が身に付いていく

Q:外国人観光客については、マナーや文化の違いなどが問題になることもありますが、留学生の場合はいかがでしょうか。

A:もちろん最初は宿舎の使い方も知らないことは多いでしょうから、生活指導は必要ですね。ごみ収集の日はいつですよとか、不要なものを辺りに放っておいてはだめですよといった指導はオリエンテーションで大学の事務方などが教えます。そうしたことを通じて、だんだん日本の文化に親しんできます。ただ留学生の場合は観光客と違って、もともと日本文化に興味や理解があって来日しているケースが多いですから、生活習慣を学ぼう、覚えようという気持ちは強いのではないでしょうか。

面白い例では、親しくしていた中国人の留学生が、日本での留学を終えて帰国してから、自国で逆カルチャーショックを受けたという話がありました。「中国では2階からごみを投げ捨てているんですよ、どう思われますか」と言われた時には、可笑しかったですね(笑)。外国人なのに、留学中に日本の習慣に慣れ親しんでくれたわけです。

帰国後にこそ活かされる、留学の真の意義とは

日本学生支援機構
Q:帰国してからも、日本での経験は生き続けるのですね。

A:実のところ、何かの時に頼りになるのは、すでに帰国した元日本留学生なのです。インドネシアやタイなど、それぞれの国で「元日本留学生の会」というのがあります。例えば、日本企業がその国に進出する時に前例がなかったりすると、元日本留学生が現地との間を取り持ってくれることが多いのです。日本に留学して帰国した人たちが、日本のために様々な道を切り開いてくれているんですね。これは日本にとっては宝物です。もっともっと大事にしなければと思いますね。

私たちが留学フェアを開催する時にも、現地の元日本留学生の会と共催にすることが多いです。何か新しいことをしたい時などに、たいへん頼りになるんですね。やはり、若い頃の意欲的な時期を日本で過ごしたことと、日本でその文化に親しみ、良い人間関係もできたことで、日本への愛着が永続されるんですね。

古い例で言うと、南方特別留学生として、太平洋戦争中の1943年から44年にかけて、当時の日本がマレーシアなどから国費で留学生を招いているのです。そうした人たちの中には帰国してから事業に成功して、90歳くらいの今でも日本人を現地でいろいろと世話してくれている、留学の生き字引みたいな方がおられるんですよ。また、インドネシアではいわゆる賠償留学生といって、戦後日本が支払った賠償資金を基に、それをインドネシア政府が奨学金として日本に留学する学生に付与したという例もあります。そうした留学経験者は親日家として、日本の国際交流において大切な存在となっているのです。

Q:日本に留学生を受け入れることは、末永く日本にとっての財産になるのですね。

A:そうですね。留学というのは、単に何年か日本で暮らして、それっきりとはならないものです。そこからまた何か別のものが生まれたりもするのです。特に留学経験者のお子さん、お孫さんがまた日本に留学される例も多いんですよ。東南アジアの国々は日本に対して温かいですね。

「ASCOJA(アスコジャ)」という団体、アセアン元日本留学生協会の略称なのですが、各国で活動する元日本留学生の会の連合体です。この団体が、2年ごとに元留学生が一堂に会する大会を行っていましたが、昨年からは毎年行われるようになり、熱を帯びてきています。今年はマレーシアで大会があり、日本に留学していたという共通項だけで約400人集まりました。彼らは皆、日本を第2の故国として考え、感謝をしてくれています。そうしたことを、日本の一般の皆さんにも、もっと知ってもらいたいですね。

来日留学生20万人から4年後の30万人目標へ、そしてその先は

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Q:日本への留学生は、今後も増え続けるのでしょうか。

A:実は日本政府では、2020年までに30万人の留学生受け入れを目指す「留学生30万人計画」というものを2008年福田康夫内閣の時に策定しています。オリンピックの東京開催よりも先に2020年というのは決まっていたのですが、2015年時点で20万人ですから、目標としてはちょっとハードルが高いかもしれません。しかしながら、近いレベルにまで届くのではないかと思います。

また、日本に留学する学生の半分強が日本企業での就職を希望しており、実現できるのはその半分、つまり、留学生全体の25〜30%が日本で学び、そして働くという夢を実現させているのが現状です。日本政府はこれを50%にしようと目指しているのです。理由は明確で、少子化による労働力人口減をカバーする手段のひとつとして、高等教育機関を卒業した良質な外国人留学生を求めているわけです。

実際、従来は外国人が日本の永住権を得るには連続して10年の在留実績が必要でしたが、徐々に要件が緩和されてきており、現在は経済・産業分野、文化・芸術分野、教育分野・研究分野などにおいて一定の貢献が認められれば在留期間5年で永住権が与えられるようにもなっています。

労働力減をカバーする方策として政府はまた、留学以外にも研修という形で外国人を企業や農村への派遣、看護師・介護士として導入することも行っていますが、一定の期間を終えると帰国する制度となっているので、外国人労働力の獲得を続けなければならず、なかなか定着しないのが問題です。これについても政府は今、緩和措置を講じているところですが、ありとあらゆる手段を用いて良質な労働力を確保したいというのは確かなトレンドです。大学だけでなく、専門学校への留学も今後ますます増えるでしょうし、制度的な後押しを受けながら、留学後の日本国内への定着も進められることでしょう。

Q:2020年、来日留学生30万人を目指した先は、どうなるのでしょうか。

A:今、世界の留学人口はどんどん増えているのです。OECDとユネスコ統計局のデータでは、1975年には約80万人だったのが、2011年時点で約430万人と5倍以上に膨れ上がっています。そうした中、最近のトレンドとしては各国が留学生についての数値目標を持っているということがあります。例えば、韓国は2023年までに20万人を受け入れ、ドイツは日本と同じく2020年までに30万人を受け入れ、フランスは2025年までに倍にするといった目標です。アメリカでも2020年までに自国の学生を各国に60万人派遣しようとしています。オーストラリアも新コロンボ計画と銘打って、自国から留学する学生に対して奨学金などの留学支援プログラムを積極的に運営しています。

この背景には、EU加盟国間の学生流動を高めようというエラスムス計画があります。1987年にプログラムが開始され、EU内を行き来しながら学べる環境づくりが行われ、世界のトレンドを方向づけました。東アジアでも、2011年よりキャンパス・アジアという日中韓の大学でプログラムを共有して互いの単位を認めるといった取り組みが実施されています。また、日本と韓国の2国間では日韓共同理工系学部留学生への奨学金支給を行って、日本の大学(学部)に留学する理工学系人材に対して、両政府はそれぞれ年間50人、計100人くらいを支援しています。

このように、世界の国々は優秀な留学生を獲得する競争に入っているのです。オーストラリアのある機関が試算した数字では、世界の留学生数は2030年までに700万人になるとも言われています。その中で、日本はどれくらいのシェアを獲得する事ができるかが肝心です。日本政府としては、5%は獲得したいと考えています。30万人計画というのも、そうした推移から高めに目標設定した数字と言えるでしょう。

2020年に達成するにはハードルの高い目標ですが、競合各国に劣らず優秀な人材を確保していくには、奨学金制度や宿舎など、受け入れ環境が万全であることが求められます。国際競争力のある制度、魅力ある宿舎があれば、それが留学先としての魅力にも直結します。官民で留学生へのサポート体制を整えることが、日本の将来の産業育成や文化の発展につながるのです。

(プロフィール)
独立行政法人日本学生支援機構
理事
米川英樹

大阪教育大学名誉教授。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程中退。
大阪教育大学では留学生センター長、附属学校部長などの要職を歴任。
専門は教育社会学。研究分野は若者文化、教員養成の比較、学校運営、子どもの学力向上比較、教育研究法など。
長年にわたり各国の留学生を含む数多くの学生を指導し、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの研究者との共同研究を通じ、大学の国際交流の発展に大きく貢献。
2012年より独立行政法人日本学生支援機構の理事として、留学生支援事業、日本語教育センターおよび調査部門を担当。

独立行政法人 日本学生支援機構
http://www.jasso.go.jp/

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