【前編】高齢化社会における、介護ロボット導入効果を最大化するルール形成とは〜多摩大学 ルール形成戦略研究所〜

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レオパレス21の介護事業を展開する「あずみ苑」では、介護現場の負担や不安を解消し、働きやすい職場環境を目指すため、コミュニケーションロボットや離床センサー、パワースーツの活用にも積極的に取り組んでいます。
そうした状況を受け、2016年12月に多摩大学 ルール形成戦略研究所が創設した「介護ロボットの導入効果を最大化するルール形成研究会」への参加を、レオパレス21も始めました。研究会の目的や活動について、多摩大学大学院教授で同研究所所長の國分俊史氏に伺います。

社会課題が市場となる領域にこそ、ルール形成が必要

Q:「ルール形成戦略」とは耳慣れない言葉ですが、どういうことを指すのでしょうか。

A:簡単に言えば、社会の中で「売れるルール(規制)をつくる」戦略ということになります。
国際社会の課題を解決するにはルールづくりが必要ですが、日本はそれが上手くありません。世界のマーケットでは規制によって社会課題の解決に貢献できる企業だけが存在を許される状況を創り上げるルール形成戦略が急速に進んでいます。良いものをつくることができても、ルールが変われば日本が負けてしまうというのは、ガラケーと言われる日本型の携帯電話とスマートフォンの顛末を見ても明らかでしょう。

Q:そうしたルール形成が必要なのは、どのような領域でしょうか。

A:安全や環境など、社会課題が市場となる領域と言えます。自動車には事故が起こらないよう安全基準が必要ですし、事故の際の責任所在も明確にルール化しておかなかったら、どこのメーカーも自動車の開発・製造に手を出しにくいでしょう。そうした状況にある領域に対してルール整備を行い、場合によってはルールの書き換えもして、有望な技術を世の中に送り出すのがルール形成戦略です。私は20年間に渡って国内外のシンクタンクやコンサルティングファームで経営コンサルティングに携わる中で、「社会課題起点のルール形成戦略」に対する専門性を高めてきました。

このルール形成戦略を専門とする日本で初めての総合シンクタンクとして、2016年6月、多摩大学 ルール形成戦略研究所を創設し、甘利明 前TPP担当大臣を顧問に、また、自民党IT戦略特命委員会事務局長である福田峰之衆議院議員や、経済産業省の現役官僚であり通商交渉官を務めてこられた藤井敏彦氏を客員教授としてお迎えしています。
このような、ルール形成を実際に行える立場である現役の政治家や官僚が、大学やシンクタンクのメンバーに入って力を発揮するというのはアメリカでは普通ですが、日本では例がありません。それで、実際的な力を持つ研究所を置かせていただける大学を探していたところ、多摩大学の寺島実郎学長がご賛同くださり、創設が実現できました。

研究機関というアカデミックな存在と、政治的実行力の融合

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Q:執行役員も務められているデロイト トーマツ コンサルティングではなく、大学を巻き込む意味は何だったのでしょうか。

A:民間企業が行うと利益追求が目的だろうと思われるのが、世界の常識です。また、日本では大学は研究して論文を発表する存在であって、首相経験のある政治学者も皆無であるなど、アカデミックな機関と実行力のある政治界・経済界に距離がありますが、アメリカでは非常に近しい存在で、ライス元国務長官はもともとスタンフォード大学の研究者で退任後は教授に戻っていますし、キッシンジャー元国務長官も学者でした。
我々の研究所が目指すのは研究論文を書くだけでなく、その成果を政策に取り込むことなのです。客員教授が10人、研究員が20〜30人というシンクタンクですが、そのメンバーにはアカデミックな人材のほか、現役の政治家、官僚、パシフィックフォーラム戦略国際問題研究所(CSIS)のメンバーでもある私のような海外シンクタンクに関わる人材など、ルール形成の構想から政策にまで落とし込んでいけるタレントが揃っているのです。

Q: 2017年4月からは実際に授業も始まっているそうですね。

A:経営学修士を得られる2年間のMBAコースと、経営の実務経験者がルール形成を学ぶ1年間のCRSコースがあります。
学生8人の内、約半数は企業から派遣されていて、ルール形成に対する実業界の関心の高さが窺えますね。プログラムにはフィールドワークも含まれていて、議員事務所でのインターンやアメリカのシンクタンクでの政策作成サポートなどを予定しています。リアルな経験を通じて、政策がつくられていくプロセスを理解しているビジネスマンとなってもらいたいですね。

紙から電子へ、データ管理の原則転換で効果測定がスムーズに

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Q:2016年12月に「介護ロボットの導入効果を最大化するルール形成研究会」を立ち上げた経緯を教えてください。

A:この研究会の目的はルール形成を政策に落とし込むことですが、その起点となったのが2016年12月に議員立法で成立した「官民データ活用推進基本法」です。
これにより、紙ベースだった行政のデータ管理について、電子が「正」へと原則を転換したのです。これまで紙で管理していたために自治体によってフォーマットも項目もまちまちで、とりまとめも難しく、情報が足りているかすら分かりにくい状態でした。これは介護業界がずっと悩まされてきたことですが、届出するにも自治体によって要求される書類や項目は不揃いで、利用者の介護認定の根拠を確認しようにも記録管理も不明瞭、出てくる担当者によって対応が異なる、などということも度々でした。
今後は法律に従って電子データで情報管理されるので、メール送付での提出ができますし、クラウド化の推進によって全国自治体のデータを比較検討するといった分析も容易にしていけるわけです。

介護ロボットも様々なシーンにおける利用実績データを収集、分析することで、生産性の向上や安全性の向上をアピールでき、それがルールや国際基準を決めることにつながりますから、この法律を上手く活用することで、介護業界を取り巻く状況や介護ロボットの導入効果の検証に役立てられると考えました。政策の基盤となる政府予算の流れとしては、8月に次年度の概算要求として予算の大枠が決まります。逆算して6月初旬には政府案のもととなる与党案がまとめられますので、当研究会としてはそこに盛り込めるような構想を5月末までにつくるというスケジュール感により、昨年12月の立ち上げとなったわけです。

Q:その活動の中で、レオパレス21など参加企業・法人の役割とは何でしょうか。

A:基本的には訪問型・施設型両方の介護現場の意見を広く発していただくことであり、なかでも新しい取り組みに対して積極的にチャレンジする、そしてクイックに意見を伺えるということを期待しています。
当研究会は、セントケア・ホールディング、SOMPOホールディングスなどの株式会社のほか、社会福祉法人を含む計7法人の参加から始まったもので、その後、約250社が登録している一般社団法人日本在宅介護協会にもご協力いただけることになり、与党案にインパクトを与えられるような業界意見のヒアリングや資料作成もスムーズに運んでいます。

(プロフィール)
多摩大学
ルール形成戦略研究所所長
國分俊史
多摩大学大学院教授。デロイト トーマツ コンサルティング執行役員。
パシフィックフォーラム戦略国際問題研究所(CSIS)シニアフェロー。
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。
IT企業の経営企画、シンクタンク、A.T.カーニープリンシパルを経てデロイト トーマツ コンサルティングに参画。
社会課題起点のルール形成戦略の第一人者として通商政策の支援や政・官・民連携によるイシューエコシステムづくりを、様々な社会課題について推進。
また、社会課題が安全保障に関わるテーマであることから、安全保障経済政策のアドバイザーとして政府の委員なども歴任。
日本企業の弱みである安全保障経済政策やルール形成を切り口としたグローバル戦略の立案から、世界各国のポリシーメーカーとの連携にまで及んでいる。
編著書に「世界市場で勝つルールメイキング戦略 技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか」(朝日新聞出版)。

多摩大学 ルール形成戦略研究所
http://www.tama.ac.jp/research/ord/rule.html

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