【後編】高齢化社会における、介護ロボット導入効果を最大化するルール形成とは〜多摩大学 ルール形成戦略研究所〜

ケア

関連キーワード
介護ロボット
前編では、レオパレス21が参加している「介護ロボットの導入効果を最大化するルール形成研究会」を主催する多摩大学 ルール形成戦略研究所所長の國分俊史氏に、日本が後塵を拝しがちな「ルール形成戦略」の重要性、また、介護業界におけるデータやロボットをキーワードにルール形成を政策に落とし込む活動とその目的についてお聞きしました。
後編では、ルール形成が介護業界にもたらすベネフィットや今後の展開について伺います。

介護現場の難しさを目の当たりにしてきたからこそ感じる、ITベースでのルール形成の必要性

Q:介護業界にルール形成が必要と思われたのは、どういった理由からですか。

A:私自身、2012年頃から介護事業者の海外展開の支援コンサルティングに携わっており、介護業界の現状に通じていたのが理由のひとつです。
また、父が地方で介護施設経営に長年携わっていたことから、介護現場の苦労や経営の難しさを肌で感じてきたのも大きいですね。
医療ほど感謝を示される機会も少なく、給与水準も十分とは言えない環境で、働く人のモチベーションを維持するのも大変なことですし、経営者には倫理観や哲学を現場に浸透させる努力が不可欠です。ひとつの施設でも施設長から現場の介護職員にまで浸透させていくのが難しいのに、いくつもの拠点、あるいは全国展開、海外展開などと考えていくと、ITを活用した優れたオペレーション知見の体系化が急務だと感じました。また、そうすることで介護事業が日本にとっても大きな収益源になり得ると思っています。

Q:日本にとっての収益源ということは、海外展開が前提なのでしょうか。

A:介護ロボットで言えば、ルール形成による導入効果の最大化というのは、日本国内で普及促進をもたらすのはもちろんですが、その先にはロボット×日本のオペレーションの強みを「日式介護」というパッケージにして世界に横展開で広げていくことを見据えるべきと考えます。

ルール形成で政府に働きかけるのは、旧来の族議員への陳情で規制緩和や報酬引き上げを働きかけるといった動きとは全く異なります。昨年末に制定された官民データ利活用法を梃にしてAIの活用領域の拡大や、ロボットの導入効果分析のレベルの向上を通じて本当に効果を生めるのでロボットの普及を促進していこうという、法律活用型の政策をつくるというイメージです。公共の利益を目指してフレームをつくり、それを広め、国際的にも横展開していくということですね。

世界における開発のメインストリームは、メーカー主導ではなくユーザー発想

介護ロボット
Q:これまでの日本では、そうした動きが全くなかったわけですね。

A:ルールがない現状では、メーカーは自社の技術の範囲でロボットをつくることしかやりません。
本来は現場ユーザーの視点に基づく発想が開発の起点となるべきですし、アメリカではそれが常識とされています。肉体労働の負担を軽減するパワースーツも、日本ではまず大がかりな機械を装着する工程ありきで、人がロボット化する思想ですが、スティーブ・ジョブズであれば、装着していることを忘れてしまうフィット感のある洋服のようなパワースーツを考えろと当たり前のように言うことでしょう。

シリコンバレーでもイスラエルでも、不可能と思われている難易度は高いがワクワクする問題にチャレンジできる場をつくることで、最先端技術の英知が集まり、ドラスティックな開発が進むのです。日本ではメーカーが自社製品を発表する展示会や見本市は盛んですが、英知の結集を世界に呼びかけるニーズを発信する場がありません。つまり、「日本の介護の問題に世界の英知を結集して」というステップが最初から抜けてしまっているのです。介護業界はこれまで地域密着型のドメスティックな産業構造であったことから、介護事業者が世界にニーズを発信して開発意欲のあるイノベーティブな企業を世界中から呼び込み、自身が能動的に海外企業と協力してロボット開発に踏み込むといったことは行われてはきませんでした。私たちのような研究所が介護事業者とメーカーの間に入ることで、これまでの遅れを取り戻せるのではないかと考えています。

Q:「日式介護」について、もう少し説明していただけますか。

A:世界に売っていきたいのはロボット単体ではなくて、ロボットとオペレーションの掛け合わせによるパッケージであり、それを「日式介護」と命名すべきと考えます。
利用者の要介護度が改善できるロボットには、現場で培った何らかのノウハウが角度や、速度、力の強弱など必ず何からの形で落とし込まれるはずであり、それを実現するためにはこうした日式介護のナレッジをデータ化してプログラム化することが不可欠になります。AIはそのうえで繰り返し利用されることで自主学習を積み上げていくわけですが、学習を始める発射台の開発段階で日式介護ロジックをインプットしたロボットと、そうでないロボットでは学主効果に大きな差が生まれるはずです。
この初期ロジックをブラックボックス化しておけば、他国が真似してつくろうとしてもできない競争優位が作り出せることになります。どのような症状の利用者にどういったタイミングでいかに使うかといったオペレーションとともにパッケージ化した「日式介護」が売れるような仕組みに導くルール形成が最終目標なのです。

「日式介護」をPRする舞台として、2020年東京五輪を照準に

介護ロボット
Q:時間軸はどのようにお考えですか。

A:2020年の東京オリンピック・パラリンピックが目安でしょう。世界の目が東京に注がれ、多くの外国人が訪れるわけですから、ショーケースとしては最高の舞台です。
その頃には「日式介護」を直接示せる現場がいくつかある状況を目指したいですね。しかも実証段階ではなく、すでに実践されていて、その場でパッケージを購入していけるくらいに、オペレーションのパターンなどのデータが蓄積されているのが理想です。首相が公の場でセールスできれば最高でしょう。自動運転や水素発電といったテクノロジーも2020年に向けて動いていますが、世界にアピールする機会としてオリンピック・パラリンピックが適しているのと、3年後という事業者にとっても長過ぎないプランを立てやすい期間であるのが良いのでしょう。

目標設定に時間軸が入っていると、逆算していつまでに何をすべきかも数値化しやすいですね。例えば、2020年までに「日式介護」を外国人ヘルパーの現場でもデモンストレーションできることを目指した場合には、経験豊かな日本人ヘルパーが外国人ヘルパーにAR/VRを用いた訓練を重ねておきたいので、2018年にはウェアラブルのスマートグラスが現場にはいくつ必要だというように調達計画への落とし込みが既に求められます。また、世界の英知を結集することで多様なロボットの開発が加速すれば、検証のためにどの特区で何に取り組むかなど、地域ごとの実験プランも具体化しておく必要が生じます。実は2020年に向けては相当具体的な計画が必要とされることが分かるでしょう。

Q:具体的なイメージが湧きますね。

A:ただ問題なのは、日本では単年度の予算しか決まっていかないことなのです。そのため、2020年に向けて2018年の予算を決めるのですが、その時点では2019年の予算は見通せないのです。梯子を外されることもあり得ますから、事業者からすれば設備投資に踏み切れるか難しいですね。

日本政府が掲げる“○ヵ年計画”といったものには、定量的に到達したい数字しか入っていないものです。水素自動車(FCV)で言えば、2020年までに4万台の普及を打ち出していますが、2020年時点での購入補助金をいくら付けるとは書かれていません。それが政府の単年度予算の原則なのです。その時々の環境や進展具合に応じて決まっていったり、時の政権が何を優先するかという嗜好も影響してきます。
現安倍政権は介護分野のロボットやICTの推進に積極的ですが、もしも首相が変わり、ロボットより人材に予算を付けるなどの方針転換があれば、事業者が前提としていた経営環境が大きく変化してしまいます。その意味で、閣議決定を経て政府案にまで落とし込まれていれば政府としての決定事項になるので、政策の継続性がある程度担保されます。こうした日本におけるルール形成のプロセスとしての閣議決定の位置づけというのはとても重要なのですが意外とビジネスの現場では閣議決定の意義などは理解されていません。多摩大学 ルール形成戦略研究所では、ルール形成プロセスに精通し、政策形成に対する知見を経営戦略で使いこなすための実践的な手法も学んでもらっています。

(プロフィール)
多摩大学
ルール形成戦略研究所所長
國分俊史
多摩大学大学院教授。デロイト トーマツ コンサルティング執行役員。
パシフィックフォーラム戦略国際問題研究所(CSIS)シニアフェロー。
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。
IT企業の経営企画、シンクタンク、A.T.カーニープリンシパルを経てデロイト トーマツ コンサルティングに参画。社会課題起点のルール形成戦略の第一人者として通商政策の支援や政・官・民連携によるイシューエコシステムづくりを、様々な社会課題について推進。
また、社会課題が安全保障に関わるテーマであることから、安全保障経済政策のアドバイザーとして政府の委員なども歴任。日本企業の弱みである安全保障経済政策やルール形成を切り口としたグローバル戦略の立案から、世界各国のポリシーメーカーとの連携にまで及んでいる。
編著書に「世界市場で勝つルールメイキング戦略 技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか」(朝日新聞出版)。

多摩大学 ルール形成戦略研究所
http://www.tama.ac.jp/research/ord/rule.html

介護ロボット記事一覧はこちら
【前編】介護ロボット導入効果『売れるルールを政策に落とし込む』
【後編】介護ロボット導入効果『導入効果を現場で検証』導入効果を最大化するルール形成とは
【前編】介護施設で高齢者に大人気のAIロボット『パルロ導入で変わった介護の現場』
【後編】介護施設で高齢者に大人気のAIロボット『パルロ導入で変わった介護の現場』

その他のおすすめ記事

その他のケアの記事

キーワード一覧

 ページトップ