【前編】多様性ある社会のベースとなる「心のバリアフリー」を進める取り組みとは 『大切なのは物理的なバリアフリーより、手助けする気持ち〜認定NPO法人 ココロのバリアフリー計画〜』

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バリアフリーというと、エレベーターや段差のないスロープがあれば大丈夫と思われがちです。
しかし、実際に車椅子で移動しようとすると、車道から歩道へといった数センチの段差でも誰かの助けが必要になります。逆に、困った時にちょっと手伝ってもらうだけで、車椅子の方にとって街は動きやすくなるようです。
身体的バリアがあっても、誰もが行きたいところへ気持ちよく出掛けて行けるような環境づくりを推進していている認定NPO法人 「ココロのバリアフリー計画」理事長の池田君江氏(写真右)と、その応援店第1号である「串カツ田中」の貫啓二社長(写真左)にお話を伺います。

狭いお店でも、ちょっと詰めてもらえれば車椅子でも入れることが

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Q:「ココロのバリアフリー計画」の活動内容を教えていただけますか。

池田:車椅子やベビーカーの方、お年寄りがいらした時にちょっとした手助けや気遣いをしてもらえるお店に「ココロのバリアフリー応援店」として、ステッカーを貼っていただいています。
応援店の登録に必要なのは、お店の入り口やトイレの幅、段差などの情報と、どんなお客様でもウェルカムだというお気持ちです。車椅子でも出掛けていきやすい場所を増やしたい思いから、この活動を始めました。現在、応援店はレストラン・居酒屋・バーベキュー店などの飲食店のほか、カラオケ・スーパー・ヘアサロン・ネイルサロンなど幅広く、1000店以上になっています。

Q:活動のきっかけは何ですか。

実は、私は2007年、渋谷にある温泉施設の爆発事故で脊髄を損傷し、車椅子での生活となったのです。
もともと食べ歩きが好きでいろいろなところへ出掛けていましたが、車椅子だと行ける場所が限られます。駅ビルなどの大型施設で、エレベーターもあって入りやすそうに思われるところでも入店しようとすると「当店はバリアフリーではないので」「ほかのお客様にご迷惑なので」などと断られたり、あらかじめ電話で伺っても積極的に受け入れてもらえることが少なく、あまりお店に行かなくなってしまいました。

そんな時に、家の近所に串カツ屋さんが新しくできて、大阪出身の私には、串カツはソウルフードですから、気になっていました。
しばらくして家族と通り掛かったとき、混みあってはいたのですが駄目元で車椅子でも入れるか、尋ねてみました。すると、お店にいたオーナーが快く「どうすれば良いですか?」と聞いてくれたんですね。

それで、車椅子の「こことここを持って運んでください」とお願いしたら、スタッフの男性を何人か呼んで、入り口の段差を車椅子ごと持ち上げて入れてくれたんです。店内のお客さんにも「車椅子の方が通るので、一度立っていただけますか」と声を掛けてくださって、無事に席に着いて美味しく串カツをいただくことができました。

一台一台サイズも異なる車椅子。店舗のサイズが分かれば役に立つ

バリアフリー
Q:それが、「ココロのバリアフリー」ですね。

池田:そうなんです。段差などちょっとしたバリアがあったとしても、少し手伝ってもらえたり、ウェルカムな雰囲気で迎えられるだけでそうしたバリアは軽々と超えられるのだと、その時に実感したんですね。そのお店が「串カツ田中」の1号店で、オーナー店長が貫社長だったわけです。以来、こういうお店が増えれば良いねというので、いろいろ相談をさせてもらい、ココロのバリアフリー計画の活動に協力していただいているのです。

貫:私自身、障がいのある方と関わったことがなく、せっかくお客様として来てくださったので、何とか応えたいという気持ちだけでした。でも、店の出入りとお手洗いの時にちょっとお手伝いするだけで、テーブルでは普通に明るくお過ごしのご様子で、特別に身構えることはないのだなと思いました。

Q:応援店になるための手続きを教えていただけますか。

池田:お店の入り口やトイレのスペース(幅や奥行など)、段差などの情報、それぞれの寸法をお店の方に測っていただいています。
車椅子には規格で定められたサイズというものはありません。体格にもよるので、一台一台がオーダーメイドだったりします。私も何台か持っていますが、幅が50センチのもの、53センチのもの、少し軽量のものなどがあります。お店の寸法が分かっていれば、「この車椅子なら入れる」「持ち上げられるよう、軽いものに」と、車椅子を選んで出掛けることも可能なのです。

そうした寸法の情報のほかに、近隣で役立つ情報も教えてもらったりしています。例えば、そのお店のトイレは狭くても、ビルの地下駐車場には車椅子用のトイレがあるといったことですね。夜8時までは近所の病院のトイレを借してもらえるようお願いしてくださっている例もあります。

Q:なかなか表には出てこないけれど、車椅子の方にとって役立つ情報ですね。

池田:そうですね。「串カツ田中」との出会いが2009年で、そういうウェルカムなお店をいろいろと紹介できればと、応援店のステッカーが貼ってあるお店をブログで紹介してきました。その後、クラウドファンディングで資金を集めて、2013年に情報サイトを開設し、NPO法人(2017年1月より認定NPO法人)となって運営を続けています。

「串カツ田中」では店舗を新しくする際に、スタッフルームのスペースを少し削ってトイレを広くしてくださっています。また、居抜きでレイアウトが限られ一見狭そうなお店でも、実際に測ってみると車椅子の種類によっては通れる場合があることも分かったりしました。それで、各店にサイズを出してもらおうというアイデアにもなりましたし、車椅子利用者に対応するお店側の事情が分かったことも、この活動を進めていく上でとても役立っていますね。

ココロ優しいお店には、ココロ優しいお客様が集うように

Q:応援店になるメリットとは何でしょうか。

貫:「串カツ田中」は158店舗全てが応援店です。もともとガラスの引き戸のオープンな造りですが、1段や2段の段差がある店舗もありますし、一部2階というところもあります。ただし、全店ともココロのバリアフリー計画の活動を支援している、という話はスタッフに行き渡っています。車椅子の介助スキルよりも大切なのは、何が必要かを聞いて対応ができることです。必要な対応は、そのお客様により、障がいの度合いにより異なるものですから、マニュアルでは駄目なのです。

池田理事長と出会って分かったのは、施設や設備ではなく、本人の話を聞きながらその場でできるだけの対応をするといったことを続けていくだけで、車椅子の方が出掛けやすくなるというのと、受け入れる側も慣れていくということです。店として対応すると表明していると、アルバイトのスタッフも自然と実行できるようになっていくんですね。

池田:車椅子の方に優しく接しているお店というのは雰囲気も良く、お客様たちも優しいように感じます。それによって、そこにいる皆さんが優しい気持ちを共有できますし、「こういう優しいお店なら、今度はおばあちゃんを連れてこよう」などと思ってもらえたりするようです。そういう輪が広がれば良いですね。

(プロフィール)
認定NPO法人 ココロのバリアフリー計画
理事長
池田君江
2007年に起きた渋谷の温泉施設爆発事故で車椅子生活になった後、段差があっても周囲の少しの手助けがあればバリアを超えられると実感。
障がいのある方、車椅子の方、妊婦やベビーカーの方、高齢者の方などが心地良く外出できる世の中を目指し、2013年10月、NPO法人ココロのバリアフリー計画を設立。
ココロのバリアフリーを広める活動を行っている。

株式会社串カツ田中
代表取締役社長
貫啓二
1998年、個人事業にて飲食業を創業。
2002年、ケージーグラッシーズ有限会社(現 串カツ田中)を設立し、代表取締役社長に就任。
2008年に「串カツ田中」ブランドの店を東京・世田谷に立ち上げ、大阪のソウルフードである串カツを一気に多店舗展開へ。
2016年9月、東証マザーズ上場。
2017年8月現在、158店舗を展開。

ココロのバリアフリー計画
http://www.heartbarrierfree.com/

串カツ田中
http://kushi-tanaka.co.jp/

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