【後編】多様性ある社会のベースとなる「心のバリアフリー」を進める取り組みとは 『日本社会は車椅子・ベビーカー・お年寄りに優しくなれるか〜認定NPO法人 ココロのバリアフリー計画〜』

ケア

関連キーワード
バリアフリー
車椅子やベビーカー、お年寄りの方が出かけやすいように、入り口やトイレなどのサイズを開示し、来店時に手助けしてくれるお店を社会に広める活動を行っている認定NPO法人ココロのバリアフリー計画。
前編ではその理事長である池田君江氏(写真右)と、応援店第1号である「串カツ田中」の貫啓二社長(写真左)に、活動を始めた経緯や思いを伺いました。
後編ではそれが日本の社会にもたらす効果などについて伺います。

応援店の活動から、日頃の振る舞いにも変化が

Q:応援店は、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか。

池田:ご希望があれば、スタッフ向けにレクチャーも行っています。実際に車椅子でご自分のお店を体験してもらうなどですね。その際にお気づきになるポイントはいろいろあって、扉がこんなにも重く感じるとか、上のほうにある値札は見えないし、手も届かないといったことです。その感覚が分かると、お手伝いの方法も一歩踏み込めますね。

貫:「うちは応援店なのだからお手伝いしよう」と、スタッフも声を掛けやすくなる効果はありますね。コミュニケーションの方法が変わってきて、より社会性が増すという感じです。介助のスキルを高くしようというのではなく、できることをスッとやれることのほうが大事。「この程度のお手伝いで喜んでもらえるんだ、お役に立てるんだ」と分かると、仕事の時だけでなく日頃から電車で席を譲ったり、迷子に声を掛けてあげたりといったことも自然にできるようになります。

私自身もそうで、池田理事長に接するうちに車椅子のこともずいぶんと分かるようになりました。先日も車椅子の方がバスから降りる際、サポートをする乗務員の方がスロープを前向きで進ませようとしていて、それでは危ないと咄嗟に止めるよう声を掛けました。後ろ向きであれば車椅子の背もたれに体重を預けることができて、安全に降りられるのです。

一人ひとりの気持ちやマナー、ルールづくりも大切

バリアフリー
Q:日本では街で車椅子の方を見掛ける機会も少ないですね。

池田:周りの目を気にして引きこもってしまう障がい者の方が多いのです。海外では一般の方々がサポートし慣れているので、たいへん出掛けやすいですね。バス停でも、並んでいる方たちが、「あなたは車椅子だから一番最初に乗りなさい」と前に出してくれて、バスが到着して運転手がスロープを出し、私をセッティングしてくれている間にほかの方たちが乗車して、と流れがスムーズなのです。慣れているので、皆さん心得ていらっしゃるんですね。

トイレも、日本のように完全個室の車椅子用ではなく、1室だけが車椅子でも入れるようにと広くなっている造りなので、一般の方と同じように並んで、広いトイレが空くと譲ってくださるという感じです。エレベーターを待つ時、お子さんであっても、車椅子の私を先に乗せてくださいますね。障がい者にどう接すれば良いかを皆さんお分かりなのです。

Q:欧米ではそうした振る舞いが浸透しているのですね。

池田:欧米で皆さんが気づいて声を掛けてくださるのは、ホスピタリティーのある国民性というだけでなく、社会全体のルールが明確なこともあるかと思います。
例えば、車椅子用の駐車場に車を停めるには行政の許可証が必要で、車椅子だからといって日本からの旅行者である私がすぐに使えるわけではありません。長期滞在の時は現地の病院で診断書をもらってから事務所に行って、滞在期間中の許可証を取得しています。許可証なしに車椅子用駐車場に停めているとレッカー移動されて罰金も課されます。そうした法律上のルールも徹底しているんですね。

日本では車椅子マークは町のお店で買えますから、誰にでも停めることができます。そこで普段は、車椅子用駐車場にパイロンが置かれていて、これでは本末転倒になりかねません。本当に停めたい時に停められないことがあるのです。
トイレも車椅子用は完全個室型であるため、その密室性から犯罪率が高いという理由で、公園内などでは夜間は施錠されていることが少なくありません。フェスなどのイベントの時に使おうとしたら入れないことがありました。使う人のマナー問題もあって、トイレの中で一般の方がご飯を食べたり休憩していたりしたこともあります。車椅子の私たちはそこしか使えないので、外で待つしかありません。設備があってもココロが伴わなければ、残念な結果になってしまいます。

企業として心のバリアフリーに取り組むことで成長満足にも

バリアフリー
Q:日本ではどのようにしていくことが求められるのでしょうか。

池田:日本人の一人ひとりは優しいのですが、シャイなので、どうすれば良いか分からなかったり気づけなかったりするのではないでしょうか。エレベーターも皆さんすぐに乗ってしまい、車椅子の私が取り残されているのに後から気づいて気まずい雰囲気で扉が閉まるといったこともよくあります。どなたにも悪気はないのですが、常に急いでいる雰囲気が日本人にはあるかもしれません。ですから、ちょっとした意識の持ち方で社会の様子は大きく変わるのではないでしょうか。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、障がいのあるアスリートの方たちのメディアへの露出も増えていますし、おもてなしのレベルを上げるためにもバリアフリーがより進んできているかと思います。エレベーターやスロープなどの設備面だけでなく、「ココロのバリアフリー」も広がることで、社会全体が優しくなれれば良いですね。

応援店で優しい接客に触れたお客様もそうですし、スタッフの方もほかの場所でさらに優しく接することができるようになります。実際、「串カツ田中」でアルバイトをしていた学生さんが、就職した自動車販売店で、車椅子のお客様の接客をして喜ばれたことがあったそうです。相手の方の視点に立った思いやりなどが感じられたのではないでしょうか。

貫:「串カツ田中」では、ひとりでも多くの方の笑顔を生むことを企業理念としていて、顧客満足度とともに従業員満足度も向上させることを365日考えています。串カツを通しての社会貢献ですね。世間のお役に立てない企業は成長できません。必要ないと思われれば潰れてしまいます。

また、今はSNSなどで他人のきらきらした面に目が行きがちで、自分の日常生活が不幸に感じられてしまう世の中です。若い従業員たちは、どうしても他人をうらやましく思ってしまいやすく、その結果、今の仕事にも満足できなくなってしまうものです。しかし、自分が成長していると感じることができれば、自信もつき、満足感も得られて不必要な離職も防げるでしょう。

スタッフ一人ひとりの成長が企業としての成長にもなり、社会全体を良くしていくことにつながればと思いますし、「ココロのバリアフリー」はそのための一助となっているのです。

(プロフィール)
認定NPO法人 ココロのバリアフリー計画
理事長
池田君江
2007年に起きた渋谷の温泉施設爆発事故で車椅子生活になった後、段差があっても周囲の少しの手助けがあればバリアを超えられると実感。
障がいのある方、車椅子の方、妊婦やベビーカーの方、高齢者の方などが心地良く外出できる世の中を目指し、2013年10月、NPO法人ココロのバリアフリー計画を設立。
ココロのバリアフリーを広める活動を行っている。

株式会社串カツ田中
代表取締役社長
貫啓二
1998年、個人事業にて飲食業を創業。
2002年、ケージーグラッシーズ有限会社(現 串カツ田中)を設立し、代表取締役社長に就任。
2008年に「串カツ田中」ブランドの店を東京・世田谷に立ち上げ、大阪のソウルフードである串カツを一気に多店舗展開へ。
2016年9月、東証マザーズ上場。
2017年8月現在、158店舗を展開。

ココロのバリアフリー計画
http://www.heartbarrierfree.com/

串カツ田中
http://kushi-tanaka.co.jp/

その他のおすすめ記事

その他のケアの記事

キーワード一覧

 ページトップ