【前編】設計士に聞く「集合住宅の構造設計」に求められるもの〜石山構造建築事務所〜

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地震の多い日本で安全な建築物をつくる際に、なくてはならないのが構造設計という仕事です。
今回は、そのスペシャリストである石山構造建築事務所 代表取締役の石山啓治氏に、集合住宅の構造設計について話を伺いました。

建築物の安全性を確保するために必要な骨格を考える

Q:まず、構造設計とは何か教えてください。

A:建築物が重力を含めた外的な要因や自然現象などによって、安全性が損なわれないように設計するのが構造設計です。材料力学や構造力学の手法を用いて、建物の維持保全・生活空間の確保・経済活動の維持が可能な構造計画と、構造上耐力上主要な部材である柱・梁部材などの設計を行います。
簡単に言うと、建築物の見た目の美しさや、安全性・堅牢性を維持するために必要となる骨格を設計します。

実際の仕事では、設計依頼者の要望に沿った建物の安全性の確保をしつつ、合理的かつ法的にも満足しうる建物の設計を、コストとのバランスを取りながら行っています。

安全性を確保する仮定条件を出して、それを多方面から検証し答えを出す楽しさ

集合住宅
Q:構造設計を始めたきっかけや醍醐味などを聞かせてください。

A:建物の外観や間取りなどを決める意匠設計も魅力がありますが、学生時代にデザイン的な発想とデッサンの実力でとても敵わない友人がいまして、同じ土俵では勝負ができないと感じたことと、子どもの頃から物理が好きで、建築学科自体が理系の物理学・力学の延長という思いがあったため、構造の道に進みました。

建築物の安全設計を行う上では、古典的な物理学であるニュートン力学を使って答えを導き出しますが、安全性を確保するための仮定条件はひとつではなく多方面から考えられるのです。自ら仮定条件を幾つも出して検証し、自分で答えを出せるのが構造設計の面白いところです。構造設計を始めたころは意匠設計者とのみ、打合せが多かったですが、15年位前から建築主と話をする機会が増えました。そのため、安全性の確保は初めの内にやっておかなければならないということを建築主に専門用語をなるべく使わないようにして説明し、いかに構造設計の主旨を理解していただけるかも大切なポイントとなります。

集合住宅の構造設計の難しさ

Q:構造設計をする上で、戸建住宅と集合住宅の違いなどはありますか。

A:戸建住宅の構造設計にはあまり関与しないのですが、団地型の集合住宅(数棟の建物がある団地形式)の場合は特に高層の建築物だと、1階、2階などにホールや商業施設といった広い空間をつくりたいという要望が多く、そうなると構造設計も簡単にはいきません。居住空間を全て耐震壁で仕切って下層から上層まで重ねても、いちばん下のフロアでは同じように耐震壁をおくことができないため、その状態でも安全性を確保できるように構造設計者が試行錯誤することになります。

また、集合住宅の場合、賃貸の集合住宅は建築主が単独であることが多いので構造設計の主旨説明なども比較的苦労しない反面、分譲は購入者である住人の建物に対する構造上の安全性要求がみなさま異なるので、モデルルームでの分譲説明会での苦労はあります。

構造設計の必要性を知ってもらう努力も必要

集合住宅
Q:集合住宅を含めた構造設計における現状の課題や問題点を教えてください。

A:中小デベロッパーの中には、建物の安全性に関わる構造設計に対して理解度が低い担当者がいて、とにかく構造のコストを下げることを考えている場合があるのが残念です。そうした担当者に構造設計の主旨をわかりやすく説明して、いかに納得してもらうかも構造設計者の業務範囲と考えています。

集合住宅は有事の場合における避難を考えると、高層の建築物では特に地震でエレベーターや外部避難階段が使用不能になった場合、孤島と同じ状況になりかねないので、各階に非常用の水や食料を備蓄できる設備が必須だと考えていますし、法的に義務化しても良いとも思います。
集合住宅の主旨からすると、何層かに1室でも、堅牢で安全な共有スペースを確保できれば良いのですが、コストが掛かる上に売れないスペースを作ってしまうため、建築主が納得してくれません。備蓄や避難用の共有スペースについては容積率から除外するなどの法的緩和処置の整備が必要ではないでしょうか。

構造設計者の人手不足も問題です。年々、構造設計に要求されるもののレベルが高くなり、コンピュータを使った作業が必須となったため、それに対応できなかった私の上の世代の構造設計者が辞めてしまったことに加えて、構造設計を目指す若手も減少傾向にあります。日本で安全な建築物をつくるためには必須の職種ですので、国交省や文科省にも何らかの対策を考えていただきたいと思います。

(プロフィール)
石山 啓治
一級建築士・建築物適合判定士・構造一級建築士
石山構造建築事務所 代表取締役
1955年生まれ。
日本大学理工学部建築学科卒業後、1980年MAG 池下設計、1984年田中構造建築事務所を経て、1990年石山構造建築事務所設立。

石山構造建築事務所
http://www.i-kouzou.co.jp/


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