「睡眠負債」の恐怖!「働き方改革」で健康に働く時代へ

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睡眠負債
「睡眠負債(Sleep debt)」は米スタンフォード大学のスタンフォード睡眠生体リズム研究所所長、西野精治教授によって日本に紹介された言葉です。日々の僅かな睡眠不足が積み重なり、仕事の質が低下するだけでなく、うつ病・がん・認知症などの疾病につながるおそれのある慢性的な睡眠不足の状態を指します。

厚生労働省が毎年実施している「国民健康・栄養調査」によると、日本人のおよそ4割は睡眠時間が6時間未満で2007年以降、この「睡眠時間6時間未満」クラスの割合は年々増加しています。最適な睡眠時間は必ずしも8時間ではなく個人差があり、睡眠時間6時間未満のクラスに入る方全員が「睡眠不足の状態にある」とは言えないのかもしれません。しかし、それでも慢性的な睡眠不足を抱える人は相当数いると考えられます。しかもこの僅かな睡眠不足を自覚できていないケースもあり、知らず知らずの内に借金がかさむがごとく睡眠不足が蓄積していきます。

極端に短い睡眠時間の場合は、身体の変調が顕著に表れるため「睡眠不足の状態である」ということをはっきりと自覚できますが、自覚症状をあまり伴わない「僅かな睡眠不足」の蓄積が今問題となっています。

現在日本が国を挙げて取り組んでいるのが「働き方改革」です。この「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」である「働き方改革」は、私たち生活者の睡眠時間をさらに奪うのでしょうか、それとも睡眠負債の返済につながるのでしょうか。

「睡眠負債」の危険性

睡眠負債
2017年流行語大賞のトップテンにも選出された「睡眠負債」ですが、認知度はまだまだ低い状況です。
「睡眠負債」は知らず知らずの内に睡眠不足が蓄積していきます。その恐ろしさはどのようなところにあるのでしょうか。

米ペンシルバニア大学などの研究チームが、睡眠時間と集中力の関係について次のような実験を行いました。被験者を徹夜のグループと睡眠時間6時間のグループに分け、注意力や集中力を調べる反応速度テストを実施しました。結果は「6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜したのとほぼ同じ状態」でありました。

また、東北大学加齢医学研究所では「健常小児における海馬体積と睡眠時間の相関」について研究を発表しています。その研究によると「睡眠時間を十分に取っている子どもは、睡眠時間が短い子どもに比べ、海馬の体積が大きい」ということがわかりました。海馬の発達が不十分であると、うつ病や高齢時でのアルツハイマー病などの原因になることも報告されています。成人の睡眠負債も問題ですが、小児における十分な睡眠は、脳の健やかな発達のみならず、認知力の向上の点からも非常に重要であると明らかになっています。

さらに、前出の米スタンフォード大学西野精治教授のマウスを使った実験では、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれる脳のゴミが睡眠中に排出されることを突き止めました。アミロイドβはアルツハイマー病の原因物質と言われており、睡眠不足が原因となってこのゴミが十分に排出されないとすると、その蓄積からアルツハイマー病を発症するリスクが高まります。

このように「慢性的な睡眠不足=睡眠負債」は脳の発達とアルツハイマー病などのリスクに大きな影響を及ぼします。

「睡眠負債」の返上のために必要なこと

あたかも借金が積み重なるように「睡眠負債」は溜め込まれていきます。それを回避する唯一の方法は「良質な睡眠を十分に取る」しかありません。睡眠の「質」も大切ですが、やはりまずは「睡眠時間」を確保する必要があります。

日本では古くから「睡眠は8時間必要」と言われており、それを基準に睡眠時間が足りているかどうかを判断している方も多いと思われます。しかし、適切な睡眠時間には個人差があります。また、同じ人であっても年齢で違ってくるようです。この「適切な睡眠時間」がはっきりしないということも「睡眠負債」の恐ろしさにつながります。昼間に強い眠気を感じるようであれば、一度「睡眠負債」を疑ったほうが良さそうです。

「睡眠負債」の解消のために週末「寝だめ」をする人も多いようですが、これには注意が必要です。

慢性的に睡眠時間が足りていない場合、無意識の内に週末は長く寝ることになります。しかし、こうした行為は一時的に疲れを取ることには有効ですが、体内時計が乱れてしまい今度はブルー・マンデーの原因となってしまいます。

「生活リズムを整え、睡眠時間を十分に取る」、これが「睡眠負債」解消のためにはとても大切なことなのです。

「働き方改革」は「睡眠負債」の返済につながるか

国が必ず実現させようと力を入れているのが「働き方改革」です。これに関しては首相官邸のHPに詳しくその目標とするところが掲載されています。

・「働き方改革」は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ
日本は既に少子高齢化社会に突入しています。しかし、今後も国による質の良いサービスを維持していくためにはお金が必要です。労働人口が確実に減っていく状況にあっても経済規模を拡大していかなければなりません。国の掲げた目標が「GDP600兆円」です。そのための取り組みが「一億総活躍社会の実現」であり、そうした「一億総活躍社会実現」のための最大のチャレンジが「働き方改革」なのです。

私たちの労働環境に関する行政を直接所管しているのが厚生労働省です。厚生労働省は「働き方改革」に向けて幾つかのテーマを掲げました。

・「非正規雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」など
「睡眠負債」に直結する睡眠不足、その原因の最たるものがやはり長時間労働であり、厚生労働省はこうした「長時間労働の是正」に取り組むことにしています。しかし、残念ながら厚生労働省が取り組む「長時間労働の是正」は残業時間が1ヵ月に100時間を超えるような、過労死につながる極端な長時間労働を是正しようとするものです。

「睡眠負債」の解消に直接つながるような、労働環境の改善に手をつけるものではありません。もちろん「働き方改革」の波に乗って、自主的に企業が従業員の定時退社を推奨したり、残業時間の短縮に取り組むことは歓迎されるべきものです。

「働き方改革」の様々な政策の中で、「睡眠負債」の解消を目指すのに有効なものとしては「生産性の向上」が挙げられます。日本の労働生産性は今や先進国中最下位です。「働き方改革」でもこの「生産性向上」は重要なテーマになっています。生産性を向上させることで残業時間を減らし、自由に使える時間を増やす必要があります。政府としては増えた自由時間を利用し色々な消費活動や副業などをしてもらいたいのでしょうが、その時間で睡眠時間を十分に確保することが「睡眠負債」解消のためには大切になります。

生活リズムの起点は朝にある

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睡眠時間の確保とともに大切なのは、「質の良い睡眠を取る」ということです。そのためには規則正しい生活リズムが重要になってきます。そして、その起点は朝にあります。もちろん早目に床に就くという生活スタイルも大切ではありますが、睡眠の「質」の改善にはまず朝をどう迎えて、朝の時間をどのように過ごすかを考えなければなりません。「質の良い睡眠」のためには、メラトニンという睡眠ホルモンをタイミング良く分泌させなければなりません。メラトニンの分泌のスイッチが入るのは、朝起きて太陽の光を浴びた時という説があります。例えば、朝7時に起床して太陽の光を浴びると、その14〜16時間後にメラトニンの分泌が活発化すると言われています。

また、「睡眠負債」の紹介者である西野教授によれば、入眠後およそ90分後に訪れる最初のレム睡眠をいかに深くするかが睡眠の「質」を高めるのに大切であるとのことです。この最初の90分は「黄金の90分」と言われ注目されています。

「黄金の90分」を最高の形で迎えるためにも、朝起きる時間を整えることから始めてみてはいかがでしょうか。休日も「寝だめ」のために朝寝坊するのではなく、平日と同じ時間に起きて生活のリズムを乱れさせないことがブルー・マンデーの回避にもなります。

「睡眠負債」は蓄積すると身体に深刻なダメージを与えます。その解消にはやはり睡眠時間を十分に取るしかないのですが、「働き方改革」の波を上手に捉えて、まずは生活リズムを整えることが大切です。その起点となるのは朝であり、「睡眠負債」解消のための新しい「朝活」を、あなたの日常の習慣にしてみませんか。

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