【前編】産学官連携による空き家利活用プロジェクトとは?『学生のアイデアを活かして空き家を利活用 〜京浜急行電鉄×横浜市大×横浜市金沢区の試み〜』

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空き家利活用
放置された空き家が周辺住民の迷惑になるなど、空き家問題への関心が高まっています。
総務省統計局が5年ごとに実施する「住宅・土地統計調査」で2013年に発表された全国の空き家率は13.5%と過去最高となり、国もその対策として法整備に乗り出し、2015年5月には空き家対策特別措置法が完全施行されました。

各地域においてもさらなる実効性ある対策が望まれますが、横浜市金沢区では産学官連携で空き家の利活用についての取り組みが進められました。
その「ヨコイチ空き家利活用プロジェクト」について、横浜市金沢区総務部区政推進課まちづくり調整担当係長の今野剛氏(写真左)、京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部まち創造事業部 課長補佐の菊田知展氏(写真中央)、公立大学法人横浜市立大学 企画財務課課長補佐(地域貢献等担当係長)の金井国明氏(写真右)に伺います。

地域・企業・大学が力を合わせて社会的課題の解決を図る

空き家利活用
Q:まず、「ヨコイチ空き家利活用プロジェクト」について教えてください。

金井:2016年度の取り組みでは、横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系まちづくりコース3年生前期の必修授業である「まちづくり実習II」において、地域の空き家調査から実際の物件のリノベーション・事業計画までを学生が行い、そのプランを競いました。地元の金沢区に住民の方々などとのつなぎ役として協力を仰ぎ、また、もともとこの地域の住宅地を開発してきた京急グループには空き家になっている物件をご提供いただき、そうした空き家に学生のプランをベースにしたリノベーションを施し、学生用シェアハウスとして再生・活用するというものです。

Q:背景としては、どのようなことがあったのでしょうか。

今野:横浜市には18の区がありますが、その中で特に高齢化が進んでいるのが金沢区でした。最も南に位置し、横須賀市や逗子市と接する金沢区には1970〜80年代に開発された戸建て住宅が多く、当時からの住民の方々が高齢になり、空き家も増えてきていました。実は、空き家には明確な定義があるわけではなく、近隣住民の方などから樹木の繁茂や防犯対策を求めるような問い合わせが行政に入ってきて初めて対応すべき「問題」となるのですが、所有権の問題もあり、自治体がそのまま手を出すのは難しいということがあります。これは全国の自治体共通の課題なのですが、金沢区では横浜市大の学識経験、そして実際に事業所である京浜急行電鉄の力を借りて、何とか解決への道筋を図れないかと模索したのです。

その前提としては、2014年7月に締結した「環境未来都市 横浜“かなざわ八携(はっけい)協定”」がありました。横浜市は地球温暖化や少子高齢化といった社会的課題の解決のために、地域、企業、大学などと力を合わせて省エネルギー策や地域活性化を推進してきましたが、金沢区エリアにおいてもその協力をさらに強めていこうということで、京浜急行電鉄、横浜シーサイドラインという鉄道事業者、横浜商工会議所金沢支部に横浜八景島という企業、関東学院と横浜市大という大学、そして観光協会、金沢区役所の8者で協定を締結したのです。そうした産学官連携の素地があった中、空き家という社会的な課題の解決に向け、最初に声を上げてくださったのが、横浜市大でした。

金井:2015年に不動産学が専門の齊藤広子教授が本学に着任し、さらに昨今の大学におけるアクティブラーニングの推進という気運もあり、大学として、不動産というテーマで地域課題の解決に向けて、何か一緒にできることがあるのでは、という思いがありました。それで、金沢区より八携協定の繋がりから、まずは京浜急行電鉄のグループ企業である京急不動産の担当者をご紹介いただいたのです。

菊田:京浜急行電鉄では、高度経済成長期に、横浜エリアにおいても、住宅地を造成、開発してきました。そこに暮らす住民の方々の高齢化も始まっており、今後10年ほどで空き家問題の深刻化が見込まれるため、対策を考えるべきタイミングでした。当社グループの京急不動産では住宅の売買や賃貸の仲介だけではなく、リフォームや相続など現在お住まいになっている住宅に関する様々な悩みを抱えるお客さまの相談窓口として、「京急すまいるステーション」という店舗を展開しています。第1号店舗である金沢文庫店ができたのも、ちょうど2015年でした。当時から大学と自治体、それに我々企業も、住まいに対する課題が明確になっていたと言えます。

新しい住民である留学生にアピールする、事業見込みの高いプラン

空き家利活用
Q:プロジェクトの実際の流れを教えてください。

金井:2016年度の6〜7月に「まちづくり実習II」の授業が行われました。3年生約40人の必修科目です。最初のステップとしてまず地域の現状を知るために、横浜市役所建築局、金沢区、地元自治会、京浜急行電鉄のご協力をいただいて基礎情報を学んだ後、大学周辺の平潟・洲崎・町屋・寺前・金沢というエリアを中心に、街歩きを行いました。その際、金沢区には町内会長に学生たちを案内していただく調整役として入ってもらえるなど、区が間に入っているからこそのご協力も有難かったです。
また、座間市の団地再生事例などを検証して、プランづくりというものを学生が学んでいる間に、同時並行で京浜急行電鉄が金沢区内でリノベーションを実際に行える空き家物件を探してくださいました。7月初旬にその物件を学生が調べ、7班に分かれてそのリノベーションプランを考えたのです。

7月26日に成果発表会として7つの案のプレゼンテーションが行われ、ご協力各位の意見を踏まえて選ばれた案が表彰されました。それが金沢区長賞・横浜市大教育賞・京浜急行電鉄賞の3つです。

Q:それぞれ、どのようなものですか。

今野:金沢区長賞の「ふくろくじゅく」は、大学生が中学生に勉強を教えるという仕掛けで、地域の子どもたちが集まる場所として親しんでもらうプランです。世代間の交流を促す視点が魅力でした。

金井:横浜市大教育賞は「谷津ばあの家」といって、地域のお年寄りにおばあちゃんコンシェルジュとなっていただき、人生相談に乗ってもらったり、ご飯を一緒につくって提供するなど、やはり地域に交流を起こすアイデアが満載のプランでした。

菊田:京急賞が、実際に実現された留学生と日本人学生のシェアハウス「マルチコミュニケーションハウス」です。選ぶに当たっては、事業としての持続可能性を重視しました。横浜市大が留学生を増やす方向性を打ち出しているため、需要が継続するためです。留学生という、新たな住民を生み出す仕掛けにもなるといった点も高評価でした。

Q:京浜急行電鉄賞のプランに沿って、空き家が実際にシェアハウスに生まれ変わったのですね。

金井:このプロジェクトを順調に進めることができた理由は、京浜急行電鉄がその物件を買い上げて自社物件としてくれたことが大きかったです。それで、学生が存分にその物件の現況を確かめ、プランを考えることができ、選ばれた案が実際に施工されてリノベーションできたのです。学生からすれば自分たちのプランがブラッシュアップされ、事業として進められることでビジネスとは、仕事とは……といったことがリアリティを持って捉えられる機会となりました。大学としてもそうした実学をカリキュラムとして提供するとともに、結果的にシェアハウスを借り上げて留学生の住まいとして提供できましたので、二重三重に活用させてもらっているわけです。

実は、海外からの留学生を大学に呼び込むためには、その住まいの確保がいちばんの課題となるものです。今回のシェアハウスは留学生が日本人学生と交流できるため、大きなアピール材料となっています。プロジェクトが動き出してから短期間でこのような事例を形にすることができたのは、京浜急行電鉄と金沢区、そして地元の皆様のご協力があってこそです。たいへん有難いことと感じています。

(プロフィール)
京浜急行電鉄株式会社
生活事業創造本部まち創造事業部
課長補佐
菊田 知展

2009年、京浜急行電鉄株式会社入社。
流通事業、ビル賃貸事業等の担当を経て、京急沿線の横浜及び横須賀エリアのまちづくり担当として、生活事業創造本部 まち創造事業部へ配属。 趣味は、旅行、テニス。

公立大学法人横浜市立大学
企画財務課課長補佐
(地域貢献等担当係長)
金井 国明

2015年4月より現職。横浜市立大学において、地域社会の課題(ニーズ)に対し、大学の先生方の知見を活用した取組を進める中で、空き家の利活用の取組推進に携わっている。趣味はテニス。

金沢区役所
総務部区政推進課
まちづくり調整担当係長
今野 剛

横浜市役所入庁後、都市整備局で土地区画整理事業、建築局で都市計画等の業務に携わり、2017年4月より現職。趣味は、SF小説の読書、スポーツ観戦等。

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