高齢化社会で増加する認知症有病者の外出支援「おでかけサポートカード」とは

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おでかけサポートカード
厚生労働省の2012年調査では、国内の65歳以上の認知症有病者の数は約462万人で、65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症有病者という結果が出ています。
2025年を迎える頃には、その数も700万人に達すると推測されており、様々なシチュエーションでの対応が求められています。

鉄道やバス・タクシーといった交通機関でも、認知症有病者への対応は大きな課題となっています。乗務員や係員が駅構内やバス・タクシーの車内で、認知症有病者もしくはそう思われる利用客に対応する機会が増えており、対応の方法や注意点などのガイドラインの整備が必要とされる一方で、認知症有病者やその家族に対しての公共交通機関側からの要望も聞かれるようになりました。

公共交通のバリアフリー化の推進を支援する公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団は、このような交通機関からの声を踏まえて、2017年4月に「おでかけサポートカード」を公表しました。認知症の方が外出の際に携帯することにより、利用する公共交通機関職員とのコミュニケーションがスムーズになるようにするのが目的です。

交通エコロジー・モビリティ財団とは

認知症有病者にやさしい公共交通、「おでかけサポート」を展開する、交通エコロジー・モビリティ財団は、1994年に財団法人交通アメニティ推進機構として誕生しました。その後、交通がもたらす環境への影響対策や、地域の国際交流・交通整備を主体にした地域活性化などの事業も担うことになり、1997年に交通エコロジー・モビリティ財団(略称:エコモ財団)と名称変更をします。

公共交通機関や公共施設などでのバリアフリー化の推進、あるいはエコロジーな環境整備のための支援などの事業を行っており、身近なところでは、駅構内でのエスカレーターやエレベーターの設置を支援したり、カーシェアリングや電動小型低速車の普及などエコドライブの普及に努めたりと、私たちの身の回りの環境改善を促しています。また、海外からの旅行者がスムーズに移動できるよう、駅構内の案内表示を分かりやすく改善し、案内情報を充実化する活動を行っているのもこの団体です。

そのほかにも、観光地での電動小型低速車の導入支援、バリアフリー推進のための勉強会の開催・向上のための調査など、啓蒙や研究といった目的達成のための活動も、この団体の事業内容のひとつです。定期的に発行される広報誌「ECOMO(エコモ)」では、最新の研究成果や活動内容が詳しく紹介されています。

「おでかけサポート」は、交通エコロジー・モビリティ財団が2016年に実施したアンケートの結果をもとに始められた活動です。各都道府県の主要な鉄道・バス・タクシー会社から回収されたアンケートの結果から、各交通機関の認知症有病者対応の現状や、抱えている問題点が見えてくるようになりました。

認知症有病者と思われる利用者を見かけた事業者は約80%

おでかけサポートカード
アンケートは各都道府県の主要な交通事業者(鉄道・バス・タクシー)に配布され、回収率は約50%でした。鉄道事業者からの回収率が60%を超えるのに対し、バスやタクシー事業者からの回収率は40%を下回っています。鉄道では、駅構内の券売機や改札・ホームといった、至るところで認知症有病者に遭遇する機会があるのに対し、主に運転手のみが対応するバスやタクシーでは、認知症有病者についての関心が社内で共有されるまでには至っていないのかもしれません。

アンケートの結果から、鉄道・バス・タクシーのいずれにおいても、認知症有病者と思われる様子の利用者と遭遇したことがあると回答した事業者は全体の約80%と高い割合になっています。鉄道は79%と若干下回りますが、バスでは92%と高い確率で遭遇する機会があったと回答しています。乗客と個々に対応する機会の多いバスやタクシーで高い確率になるのは予想できますが、鉄道でも80%近くの数値となっている点は、利用客との直接対応の機会が少ない状況でも見掛けることが増えていることを示す結果と言えるでしょう。

ただし、この数値は「認知症有病者と思われる場面・状況」であって、「認知症有病者と遭遇」した数値ではない点に注意が必要です。鉄道では「改札の通り方が分からない」「駅構内をうろついていた」、バスでは「両替の仕方が分からない」、タクシーでは「道を上手く説明できない」といった場面に遭遇したと約半数の事業者が回答していますが、それらの場面は認知症有病者でなくてもあり得る状況です。

また、鉄道やバスでは「終点まで行ってしまう人」、タクシーでは「降りてからどこへ行くか分からない様子の人」、バスやタクシーで「現金を持たずに乗車した人」などが見られたとの回答もありました。認知症有病者ではないかと思われる状況ですが、やはり断定できるというわけではありません。このような判断の難しさも、認知症有病者対応での最初のアプローチが難しいとされる要因のひとつになっています。

認知症有病者とのコミュニケーションツール「おでかけサポート」

おでかけサポートカード
認知症有病者と思われる様子の人と対応するのは、鉄道では駅係員、バスやタクシーでは運転手がほとんどです。改札の通り方などすぐに解決できることもありますが、中には目的地を上手く説明できないといったように、係員や運転手では解決できない事例もあります。家族と連絡が取れる場合はまだしも、家族の連絡先も分からない場合には警察へ連絡するとの回答が多数を占めました。

コミュニケーションが上手く取れないことで最終的には警察へ連絡せざるを得ないわけですが、警察から連絡が入った家族は驚いてしまい、その結果、認知症有病者の外出を制限してしまうことにもつながりかねません。「おでかけサポート」は、認知症有病者、あるいは外出やコミュニケーションに不安のある人が、交通機関を利用する際などにスムーズなやり取りを行えるようサポートし、安心して家の外に出掛けられるような社会を実現するための取り組みです。

行き先や連絡先の書かれたカードを外出時に携帯し、困った時にそのカードを提示して手助けを求める仕組みで、カードは自由にカスタマイズして利用できます。認知症有病者だけではなく、外出に慣れていない人や体調がすぐれない人など、様々な理由から手助けが欲しい人に幅広く対応できるデザインです。

アンケートの集計結果を見ると、どの交通事業者からも「本人確認できるものを携帯して欲しい」という要望が上がっています。アプローチやコミュニケーションの取りにくさといった声もあり、行き先の書かれたカードや「教えてください」といったカードを携帯・提示することで、駅係員や運転手など対応する側も何をすれば良いのかがすぐに分かり、スムーズなやり取りを進められます。どうしても対応が難しい時にも、連絡先の書かれたカードを身につけていれば、警察を介さずに家族と連絡を取ることもできます。

誰もが安心して出かけられる社会

交通エコロジー・モビリティ財団では、アンケートの結果から認知症有病者だけではなく、それ以外の人でも手助けが必要な時には利用できるように、「おでかけサポート」カードを作成しました。とっさに駅名を忘れてしまったり、慣れない路線では券売機の使い方が違ったりと、認知症有病者でなくとも手助けが必要な場面はたくさんあります。誰かに声を掛けるのが苦手だという人でも、この方法ならカードを見せるだけでコミュニケーションが取れ、苦手な外出も好きになれるかもしれません。

駅構内のエスカレーターやエレベーターの設置、バスの低床化など、ハード面ではかなりバリアフリー化が進んでいますが、認知症者の対応マニュアルなどが用意されていると回答した事業者は11社のみでした。自社で資料を用意しているのは3社で、内2社のマニュアルは1ページのみといった状況です。それ以外の7社は、自治体などが作成したマニュアルや資料を用意していますが、認知症の基礎知識や注意点が中心で、実際の場面で役立つ対応マニュアルにはなっていません。研修を行っている交通事業者も少なく、まだまだソフト面のバリアフリー化はこれからというのが実状のようです。

交通エコロジー・モビリティ財団の「おでかけサポート」は、ソフト面でのバリアフリー化を推進するための試みのひとつと位置づけられます。認知症者が遭遇している困った状況は、私たち誰もが遭遇する可能性のある状況なのです。鉄道・バス・タクシーなどの交通機関では、すでに職員の人たちが手を差し伸べる準備をして待っています。
「おでかけサポート」はその差し伸べられた手が、必要な場所へ的確に届くようにする「案内板」とも言えるでしょう。

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