「骨太の方針」が目指す外国人就労の規制緩和とは
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労働力不足が叫ばれる日本にとって、労働力の確保は急務です。また、経済・産業面のみならず、外国人の就労は国民生活にも深く関係してきます。
そこで今回は、「骨太の方針」が目指す外国人就労の規制緩和の内容や、それに伴って懸念される点などについて解説していきます。
外国人の受け入れを拡大する背景は?
つまり、現時点でも労働力の約50分の1は外国人が担っていますが、それでも全然足りていないといった状況です。また、15〜64歳の生産年齢人口は、これから2040年にかけて約1500万人減るという試算があります。
今後、高齢者の割合は増え続け、同時に医療・年金の負担も増えていくのに、労働力は減ってしまうという事態を迎えてしまうのです。そうなると、高齢者を支える労働力が絶対的に不足し、年金に大きな影響が出ることが懸念されています。
現在でも、高齢者が働ける環境づくり、少人数でも稼働する生産性の向上といった対策の手を打っていますが、その一環として外国人労働者を増やそうというのが今回の狙いです。例えば、教育の無償化や保育施設の増設、手当や補助金の拡充など、子育てのための支援を手厚くしたとします。
しかし、それで出生率が上がったとしても、労働力になるのは10数年後の話になります。そのため、そのような長期的なスパンでの対策も行いつつ、短期的に結果が出る外国人就労の規制緩和を導入したというわけです。
「骨太の方針」の内容とは? 報酬は日本人と同等以上、在留期間は5年を上限

政府は、新たな在留資格を設けることで、外国人が就業できる単純労働の幅を広げ2025年までに50万人超の増加を目指しています。
そうした新しい在留資格を得る道として、政府は以下に挙げる2通りの方法を用意しました。
・最長5年の技能実習制度を修了すること
・新たに導入する試験に合格すること
本国への技術移転を目的とする技能実習生の場合、従来は研修が終わると帰国せざるを得ませんでした。しかし、技能実習の期間に加え、新しい在留資格によって滞在期間(上限5年)が延びることで、より長く日本で活躍してもらえるようになります。新しい在留資格は、即戦力の人材の確保にとともに、長期で日本に滞在しながら技能を学ぼうという人を増やすのも狙いです。
また、新たに導入される技能・日本語試験に合格することでも、在留資格が得られるようにします。分野によっては、「ある程度の日常会話ができる日本語レベルである」というN4のレベルまで求められない場合もあり、日本語がそれほど得意でない人も試験に合格し在留資格が得られやすくなる予定です。
つまり、試験のハードルを下げることによって、資格取得の門戸を広げ、外国人労働者の絶対数を増やそうというわけです。
外国人の受け入れ拡大で懸念される点とは?
その一方で、外国人労働者の受け入れ拡大には、以下のような点が懸念されるのです。
・国民感情の問題
・治安の悪化
・諸外国に比べ受け入れ態勢の遅れ
まず、日本は長い間単一民族国家として、外国人の受け入れがあまり多くないという歴史があり、独特な感情が発生する問題が懸念されます。現に、安倍首相は「骨太の方針」に盛り込まれた外国人就労の規制緩和について、「移民政策とは異なる」と明確に説明しています。
これこそが国民感情として、外国人労働者の受け入れ態勢が整っていない証拠なのでしょう。そしてそうした感情が一因で規制が厳しくなっている面もあり、そのために規制緩和後でも海外基準より大きく有利になるとは言えないようです。国際的に見ても、自国外からの労働者の獲得に不安が残るのが現状です。
規制緩和によって、日本がどれだけ「選ばれる国」になるかは不透明です。そこで、今回の外国人労働者の規制緩和の教訓になると言われているのが、1960年代に働き手不足のため、トルコから大量の労働者を受け入れた旧西ドイツの例です。
当時の西ドイツは、ドイツ語をほとんど話せないトルコ人も受け入れ、そうした人たちが単純労働の担い手となっていました。しかし、共通の言語を話せないという壁は大きく、また生活文化も異なるため、多くのトルコ人は地域で孤立したようです。
それだけが原因とは限りませんが、やがて民族間の社会分断が起き、トルコ人を大量に受け入れた地域の治安が悪化してしまうという状況が見られているようです。日本でも、あまり日本語が得意でない外国人労働者を受け入れるというリスクが発生する可能性があります。その点は、旧西ドイツのような課題が顕在化しないように手を打つ必要があるかもしれません。
将来のみならず、現在でも労働力不足の中で、外国人労働者を増やすことは必須の課題と言えるでしょう。とはいえ、トラブル事例などもあるため、慎重になる必要がありそうです。しかし現在、ますます外国人労働者は増える傾向にあると言えるでしょう。そのため受け皿、生活基盤となる居住施設の確保が今後の大きな課題となるかもしれません。
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