世界の製造業の拠点はベトナムからフィリピンへ? ASEANビジネスの展望

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投資先としてますます注目されるベトナムとフィリピン

アメリカ商工会議所のシンガポール支局がまとめた、2018年度のASEANビジネスにおける展望に関する報告書によれば、金融・IT・小売などの分野の企業による、ASEAN諸国への投資に対する期待は、前年と比較してほぼ全ての国で増加しています。

特に2018年度では、ベトナムが第1位の投資先として挙げられています。ベトナムは投資環境改善の観点といった項目でもASEAN諸国の中で第2位に位置づけられ、今後も投資の拡大が続くと予想されています。

また、投資先として期待が高まっているのが、フィリピンです。フィリピンは2018年時点で投資先としては第5位に留まっていますが、報告書の調査に協力した対象企業の、実に85%が投資の増加が期待される国としてフィリピンを挙げています。

ASEAN諸国における人気投資先としてのベトナムと、期待が高まるフィリピンについて、両国の状況を考察しながら、ASEANビジネスを展望していきます。

インフラ整備で投資基盤を固めるフィリピン

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フィリピンでは、2010年から2016年まで続いた前アキノ政権による汚職対策の強化や治安の安定化などの取り組みが投資環境の改善につながりました。その結果、前アキノ政権下では、実質GDP成長率が年平均でおよそ6.1%に達しています。

2016年6月に就任したドゥテルテ大統領は、前アキノ政権の改革政策を継承しつつ、経済成長を目指しており、2017年のGDP成長率も6.7%と好調を維持しています。ドゥテルテ政権では、2017年2月に「フィリピン開発計画2017-2022」を承認したほか、包括的な経済成長を目指して、経済活動の基盤となるインフラ整備に力を注ぐとしています。

こうしたインフラ整備のための資金繰りについて、官民連携の役割を重視していたアキノ前政権に対し、ドゥテルテ政権は一般歳出や政府開発援助(ODA)を含む形で進めるとしています。つまり、デザインや建設は基本的に一般歳出、あるいはODAによって政府が実施し、運営と管理は民間に委託するというハイブリッド方式を採用するというものです。インフラ整備が進めば、投資が促進される可能性は大きく広がると言えます。

ODAに関しては中国との経済協力を重視し、対中関係改善に向けた外交努力を続けており、その結果、中国による約240億ドル(約2兆6000億円)規模のインフラ整備に対する支援を取りつけています。

日本との間でも友好的な関係が維持されており、インフラ整備の面での複数案件の経済協力が確定しています。例えば、マニラ地下鉄建設や洪水対策、首都圏のバイパス道路の建設などが支援対象となっています。

またフィリピンは、ASEAN諸国の中でも最も高い生産年齢人口の伸びが見込まれるため、投資を支える労働力が、安定した状態で成長すると予想されています。さらに、今後の人口増加、そして1億人を超える人口の所得増加が見込まれ、中間層の購買力が高まると考えられています。そして、フィリピン語と英語が公用語となっているフィリピンは、海外企業での就労におけるコミュニケーション面でも、他のASEAN諸国より優位にあると考えられています。

しかし一方で、海外からの投資が抑制される可能性も指摘されています。それは、ドゥテルテ政権によって進められている麻薬取り締まりの政策です。この政策の中で、警察が市民に対して暴力や虐待を振るうなどの被害が相次いでいるとの情報もあります。具体的な例として、ドゥテルテ政権下での麻薬取り締まりの中で、韓国人実業家が誘拐されるという事件が発生しています。こうした状況に対して、欧米諸国からは人権侵害との批判の声も上がっています。この点が影響し、欧米企業が投資を控える可能性も小さくないようです。

対外開放政策で投資を伸ばすベトナム 

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ベトナムに対する投資が拡大した大きな要因には、対外開放策を実施したことが挙げられます。ベトナムは、2001年にアメリカとの間で通商協定を発行し、2007年にはWTOに加盟するなどしてきました。その結果、2005年は33億ドルであった直接投資額が、2016年には158億ドルにまで増加しました。これにより、GDPの実に約20%を外資系企業が担うまでに、投資の誘致を進めることに成功したのです。

特に近年は、発電所建設の投資や韓国企業を中心としたディスプレイ・パネル工場への拡張投資などが行われ、10億ドルを超える大型の投資も相次いでいます。国別で見ると、投資件数では韓国、投資金額では日本が最大となっています。

さらに、TPPや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参加や、EUとの自由貿易協定(FTA)などを進め、ASEAN諸国の中でもグローバル化を率先して進めています。EUとの間では、数年後には貿易額と品目数の99%で関税を撤廃する予定になっています。

また、アメリカが離脱したTPPに代えて、ベトナムとアメリカの2国間でのFTA締結に向けての下準備も進めています。これらが実現すれば、ベトナムへの輸出における関税や制限が緩和されるとともに、世界中の多くの巨大市場にも自由に参入できるようになると考えられます。

さらにベトナムでは、近年投資を促進するための様々な経済的インセンティブの仕組みを整備しつつあります。例えば、法人所得税率を引き下げるなどの政策が実施されています。こうした仕組みが多くの海外企業にとって魅力的なビジネス環境になることは間違いなく、ベトナムへの投資が今後さらに進む可能性は高いと考えられるでしょう。

ベトナムの労働力についても高く評価されており、この点も投資を増加させる大きな潜在力と言えるでしょう。国際協力銀行が日本企業を対象に行ったアンケートでは、ベトナムの「安価な労働力」と「優秀な人材」が他のASEAN諸国に比べて高く評価されています。

しかし一方で、今後、生産年齢人口の伸びが大きく低下することが予想されています。現在は労働集約型産業を中心に海外投資が進んでいますが、この先、ベトナム政府は資本集約型産業の誘致へと構造転換を迫られる可能性が高いと言えます。これに伴い、海外投資の産業形態も徐々にシフトしていくことが考えられます。

ASEANとしての連携、統合に向けて

以上、フィリピンとベトナムの近年の経済状況並びに投資環境を概観してきました。フィリピンではインフラ整備によって投資基盤が整えられ、中国などとの経済協力の結果、ODA事業の実施も進んでいます。一方で、ドゥテルテ政権の強硬な麻薬取り締まり政策が、海外企業の投資を抑制する一因になると懸念されています。

  ベトナムではWTOへの加盟や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参加など、ASEAN諸国の中でも積極的なグローバル化を推進する政策を打ち出し、韓国などの海外企業を中心に投資が伸びてきました。しかし、今後の生産年齢人口成長の低下を考慮すると、資本集約型産業の誘致へと構造転換が迫られる状況にあり、投資環境に大きな変化が生じる可能性もあります。

  ASEANは2017年に創設50周年を迎えており、2015年末の首脳会議で採択された「ASEAN共同体2025」の達成が大きな目標となっています。東アジアとの経済連携、移民労働者問題、中国やアメリカとの経済摩擦など、多くの課題を抱えながらも、高度に統合され、競争力のあるASEANの実現に向けた取り組みが今後も行われます。そうした中で、フィリピンとベトナム、それぞれの投資環境の整備はもちろん、両国の連携、さらにはASEAN全体の経済連携についてもますます注視していく必要があると言えるでしょう。

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