【前編】VR体験で認知症への理解を! 他人事でなく自分事となるダイバーシティ社会へ『認知症を「学ぶ」のではなく「体験する」ことで理解を深める〜株式会社シルバーウッド〜』

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ゲームやアトラクションで人気のあるVR(Virtual Reality:仮想現実)は、コンピュータや電子技術により五感を刺激し、あたかも現実のように体感させる概念や技術です。
製造業や教育、医療など、現場での実施が物理的、コスト的に難しい行為のトレーニングなどにも積極的に取り入れられてきています。
そうした他者の視点を体感することで社会問題の解決につなげようという取り組みとして、株式会社シルバーウッドでは認知症のある方の感覚を体験できるVRコンテンツを制作、提供しています。その経緯や活動を同社の下河原忠道 代表取締役に伺います。

VRで認知症を一人称で体験&ディスカッション。偏見を想像力に変える

VR体験 認知症
Q:まず、シルバーウッドという会社について、教えてください。

A:鉄鋼関係の仕事を父がしていた関係で、特殊な建築工法を自分で開発し、構造躯体販売会社として2000年に設立しました。その後、様々な建築を手掛ける中、高齢者向け住宅を自ら企画・開発から施工、運営するようになったのです。それが「銀木犀」というサービス付き高齢者向け住宅で、その他、グループホームも含めて、現在設計中のものを含めると12棟を運営しています。

VR事業はもともと2016年頃に新規事業として、ハードをつくるか、ソフトをつくるかから考え始めたものです。そこで、コンテンツとして認知症を扱うというアイデアが出てきました。当社の高齢者向け住宅入居者の実は9割もが、軽度認知障害(MCI)を含めた認知症のある方たちなのです。自宅で生活し続けることが困難になって、転居されてくるわけですね。認知症があると色々な不便が生まれて、それによる焦燥感や心理的影響が多大になります。その結果、いわゆる徘徊や不穏という行動・心理状況が現れるわけで、いかに安心して生活が継続できるかが、高齢者向け住宅の事業者としての腕の見せ所だと思ってきました。

Q:そこで、コンテンツ案として、日々向き合われている認知症というテーマを思いつかれたわけですね。

A:VRには、多数の人が同時に同じ体験をできるという稀有な特性があります。そこで、認知症のある人たちに見えている世界を忠実に再現して、一人称で体験できるようにと考え、当事者や専門家にヒアリングを重ねて、まず1本つくってみました。

最初は、厚労省や新聞社、医療・介護職や地域の方々など、様々なステークホルダー50人ほどに集まってもらい、皆さんでヘッドセットを装着して同じVR体験をしていただきました。その後、ディスカッションを通じて、感想をヒアリングしたところ、「身につまされた」という意見が多く聞かれました。また、認知症のある方とはいえ、困りごとは人間であれば誰にも共通なことです。特別な困りごとが発生しているわけではなく、私たちと地続きの人たちなのだと、皆さん、感じられていました。

とはいえ、レビー小体型認知症という種類の認知症に特有の、実際には存在しないものが見えたり、感じられたりする「幻視」という症状があって、これは私たちの想像を遥かに超えています。食事をしていると、いつの間にか知らない人が同席していたり、寝ようと思って布団をめくると誰かが寝ているのが見える、といったもので、これはVRで体験すると皆さん、一様に驚きます。

但し、こういうことがあるという知識を得てもらうのが目的ではなく、あくまでも「感情体験」をしてほしいのです。
例えば、デイサービスの送迎車から一歩降りるという行為が、ものすごく高い場所からに感じられてしまう、視空間の失認障害というのも認知症の症状のひとつです。この恐ろしさを体験すると、だから怖がって降りるのをためらったり、大騒ぎになっていたのだと気づきます。
このような状況を理解し、感情に共感することで、認知症のある方に対する見る側の偏見が想像力で補われていき、声掛けや対応が変わっていくのだと思います。

2年で3万人が体験。医療・介護従事者から家族、地域へ、そして企業研修にも

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Q:体験プログラムの内容を教えてください。

A: 1時間半から2時間くらいのプログラムで、まず5分から20分までのVRコンテンツを3〜4本観ていただきます。基本的に主催者の意図に沿い、参加者の属性に合わせて、例えば介護職向けや一般向けなどコンテンツをチョイスしています。基本は、認知症の中核症状である記憶障害や見当識障害がどういうものかを描いた内容で、それ以外に、ご家族との接し方や社会が認知症の当事者と、どう接していけば良いのかに焦点を当てたコンテンツなど様々です。基本は一人称の視点で、認知症のある方の感覚を体験するものとなっています。

最大50人くらいの参加者に同じVR体験をしてもらった後は、当社から進行役のファシリテーターが入って、皆さんでディスカッションをしていただきます。その後には、認知症のある方に当事者視点で語っていただいた、世の中や周りの人々へのメッセージ動画も流します。

ディスカッションすることは重要で、VR体験だけだと、こんなに大変なのかと、むしろ偏見だけが残るかもしれません。自らバーチャルを体験した上で、当事者の声を聞くことで偏見が除かれます。そして、その状態でディスカッションするので、フラットに自分事として考えられるのです。

Q:VR認知症体験を受けられるのは、どういう方々が多いのですか。

A:2017年2月から始めて、延べ3万人もの人に体験いただきました。医療・介護事業者や行政機関、自治体に、大学など教育機関と、様々なご依頼をいただいています。一般の方々でも、ディスカッションをご家族からの視点で行ったりすると、切実な思いも強く、泣いてしまう方もいらっしゃったりしますね。最近は、一般企業からのご依頼も多いのと、中国や台湾の大学、自治体からも依頼が入るようになりました。

体験者の声としては、「人に勧めたい」というのがいちばん多いですね。地域で全員が体験すべきだと、皆さん思われるようです。実際に、岡山県庁では2018年度予算でVR端末30台を購入して、当社のVR認知症プログラムの一部を運用されています。

Q:認知症を取り巻く現状について、どのように思われていますか。

A:短絡的に、認知症だからサポートしなければ、助けてあげなければ、ということではないと思うのです。そもそも本人にどういう世界が見えていて、普段どんなことを感じているのかを知ることから、まずスタートすべきでしょう。相手の立場に立って物事を考え、そこから自分の動き方を考えられるように、世の中の意識を変えていきたいというのが目的です。その意味では、認知症だけが特別なのではないのです。ダイバーシティ、多様性ということが言われる時代ですが、社会の中に存在する色々な方たちの視点で、その感情を理解するにはVRというテクノロジーは、とても適していると思っています。そうしたことから、ワーキングマザーや発達障害などをテーマにしたVRコンテンツもつくり、送り出し始めています。

(プロフィール)
株式会社シルバーウッド
代表取締役
下河原 忠道

2000年に、高齢者住宅・施設などの企画、開発、設計及び運営を手掛ける株式会社シルバーウッドを設立。
2011年、直轄運営によるサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」開設。現在設計中のものを含め、12棟の高齢者住宅の経営を行う。2016年にはVRで、認知症の人が感じる世界を垣間見ることのできるプログラムを開発すべく、「VRでの認知症体験」プロジェクトを開始。テレビなどマスメディアでも、健康・ビジネスの観点から多数取り上げられ、話題に。2017年、VRでの認知症体験が「アジア太平洋高齢者ケア・イノベーションアワード」BEST SMART CARE TECHNOLOGY-SERVICE部門の最優秀賞を受賞。2018年には、ダイバーシティ観点のVRコンテンツ3作品が「ルミエール・ジャパン・アワード2018」VR部門 準グランプリ、優秀作品賞、特別賞を受賞。一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会理事、高齢者住まい事業者団体連合会幹事も務める。

株式会社シルバーウッド
http://www.silverwood.co.jp/

VR認知症プロジェクト
https://peraichi.com/landing_pages/view/vrninchisho

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