【後編】VR体験で認知症への理解を! 他人事でなく自分事となるダイバーシティ社会へ『VR体験で働き方改革! 誰もが力を発揮できる環境づくり〜株式会社シルバーウッド〜』

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株式会社シルバーウッドは、認知症のある方の世界をVRで体験できるコンテンツを制作、提供しています。
前編では、4万人以上が体験した(2019年3月時点)そのプログラムについて伺いました。
後編では引き続き、同社がさらにVRを活用してチャレンジする、他者の視点体験による社会的課題への取り組みについて、下河原忠道 代表取締役に伺います。

ワーキングマザーの奮闘を、間近で体験。視点の変換で、行動が変えられる

VR体験 認知症
Q:認知症に次ぐテーマとして、「VR Angle Shift(アングルシフト)」というものを進められているそうですね。

A:ある物事や事象について、自分から見えている世界観と、相手や他人が見ている世界観が同じとは限りません。例えば、桃太郎の話は鬼を退治してめでたしめでたしという一方で、親を奪われた子鬼にとっては悲しい物語になるでしょう。そのような「視点を変換」してもらう体験を、様々なVRコンテンツを通じて提供していこうということです。

現代はダイバーシティ、多様性と共存しようという時代です。企業でも、世代間ギャップや女性活躍、障害者雇用などの課題がありますが、そうしたことを社員の方々に真剣に考えていただく機会として、VRコンテンツを活用した体験型研修サービスを提供しています。レクチャーで一方的に伝えるよりも伝わる、実感させられる効果は、VR認知症体験コンテンツで実証されていますので、働き方改革への取り組みに積極的な企業に多数、研修として導入いただいています。

Q:コンテンツには、どのようなものがありますか。

A:例えば、女性活躍推進のための管理者研修などに活用いただいている「ワーキングマザー&ファザーVR」(リクルートホールディングスと共同開発)のコンテンツは、認知症コンテンツのような1人称ではなく、いわば神の視点で、働くお母さんの家庭での様子を間近で、臨場感を持って観察するものです。その内容は、仕事先に突然幼稚園から連絡が入り、お子さんが発熱したので、会議をキャンセルして迎えに行かないといけない。お子さんの世話をして家事をこなし、クタクタだけれど、持ち帰った仕事を深夜にやって・・・といったものになります。

VRコンテンツが優れているのは、臨場感ゆえの能動性です。これが、いわゆる研修ビデオやテレビドラマだと受身になりますし、作り手の編集意図によって結論に導かれてしまうところがあるものです。一方、VRの場合はその空間で360度、自分が向いた方向に視野が変わります。画角がなくインタラクティブなので、体験者が自ら能動的にその状況に没入できるのです。

また、ストーリーには意図的に落ちをつけないようにしています。日常の体験なので、体験を忠実に再現し、あえて尻切れとんぼの状態で終えるわけですね。ワーキングマザーのVRコンテンツの最後は、いつもの朝のように幼稚園に向かうお子さんと、会社に向かうお母さんが左右に分かれるところで終わります。そして、また同じ1日が始まる、ということです。

Q:体験者、研修の受講者は、どのような感想を持つのでしょうか。

A:ある大手電子機器メーカー様で実施した研修では、100%の方が有益だった、且つその内の86%が「とても有益だった」と答えています。テーマとしては既に皆さん、頭の中では理解していて、それを非常にリアリティを持って仮想体験することで、感情が揺れ動くわけです。人事部の方からの要望もその点が大きく、ダイバーシティに関する研修はかなり実施しましたが、変化を起こすのはなかなか難しいと言われます。それは知識に偏っているからで、心に働き掛け動かすことができれば、行動につながるはずです。その一手を、VRというテクノロジーが補完してくれるのですね。

このようにしながら、上司の方たちの、部下の皆さんに対する接し方が、変化していくのを楽しみにしています。その逆も、またあるかもしれません。一朝一夕に結果が出るものではないかもしれませんが、VRの刺激というのは、脳の誤作動のようなもので、かなり持続性があるものなのです。例を挙げると、VR上でケーキが出てくるシーンがあるのですが、そこで「甘い香り」を感じる人が少なくないのです。制作した私たちも驚いたのですが、クロスモーダル現象といって、VRの視覚に引っ張られて他の五感が誤作動を起こすのだとされています。そのくらい強い、臨場感のある体験なのです。

社員の中に存在する、多様な視点を「体験」して、偏見のない職場環境へ

VR体験 認知症
Q:仕事と介護の両立支援や、介護離職防止を考えていくようなコンテンツもあるそうですね。

A:「やすお じいちゃん物語」というものです。もともとは、岩手医科大学神経内科 老年科准教授の故・高橋智先生が講演で使われていたスライドでした。物忘れが始まったおじいさんに対して、周りの家族が責めるか優しく接するかで、やがて、おじいさんの様子に大きく差が出てしまう筋立てで、私はこの物語を知った時すぐに、VRコンテンツにうってつけだと思いました。そこで岩手県に赴いて奥様にお願いしたところ、ご快諾いただけたのです。この物語では、VR認知症体験コンテンツと同様、認知症の中核症状を知ることができ、後に家族の視点でつくった「息子編」は、働きながら介護する人の立場を感じることができるものとなっています。

また、このコンテンツはある保険会社で、認知症保険の説明に使っていただく予定です。VR視聴のアプリをダウンロードしたスマートフォンを使い、ダンボール製のキットを装着してヘッドセットにして、お客様に体験いただくというものになっています。認知症に備えることを勧めてもらいながら、偏見をなくしていける、効果的なタイアップになると期待しています。

Q:ビジネス自体が社会課題の解決に向かっていますが、その意味でもVRが活かされる場面は、まだまだありそうですね。

A:その通りです。そのほか、大人の発達障害を体験するVRコンテンツ制作を、障がい者就労支援会社と協力しながら、当事者の方へのヒアリングを進めているところです。就労されている方の中に、聴覚過敏という症状のある方がいますが、ストレスとともに過敏が激しくなったり、長期的には治まることもあったりと、症状には波があるのです。現在、企業には障がい者法定雇用率も定められていますが、義務だから雇用するというのではなく、皆でサポートしていこうと前向きに捉えられると良いのではないでしょうか。

そうした方たちにとって働きやすい職場というのは、心理的安全性が確保されており、実は他のどの従業員にとっても働きやすいのです。周りが手助けし気持ちに余裕を持つことで、職場全体に良い影響があるとも言われます。発達障害も認知症と同様、脳の機能障害であるだけで、むしろ特定の技能に秀でている方も少なくありません。そういったことを頭で理解するだけでなく、VR体験によって感情レベルでも理解することで、固定概念や偏見から解放されるのではないでしょうか。

Q:それが、ダイバーシティかもしれません。

A:そうですね。ワーキングマザーや介護者、障がい者に限った話ではなく、多様な従業員たちのパフォーマンスを上げていくためのメンタリティや手段は、その企業の質や文化に直結していると思います。私たちは「ジブンダイバーシティ」と呼んでいますが、人は誰もが多様な存在で、可能性に満ちています。マイノリティ支援と混同されがちですが、声高に言う必要はなく、それぞれの個性に合った場や環境で活かされれば良いのです。VR体験を通じて、そうした世界を実現していきたいですね。

コンテンツも認知症については、また改めて別の発想による新しいものを構想中ですし、ダイバーシティ関連も、様々に進めています。AR・MRを含めたXR(拡張現実:エクステンデットリアリティ)の可能性もまだまだあるでしょう。実は最近、社内の会議をVR空間で試験運用中です。会議参加者はヘッドセットを装着して、アバターが集うわけですが、色々と新鮮です。ハワイの浜辺で話し合うと、リラックスして良いアイデアが出たりするかもしれません。

近い将来には、ヘッドセット自体も簡易なめがね型になるでしょう。5Gの通信環境が普及すれば、データの多いVRコンテンツを日常的に使えるようにもなります。トライしてみたいのは、認知症のある方のめがねに、VRカメラをつけてリアルタイムで大勢が、その方の体験をできるようなことです。どういう視点がどのような行動につながっているのかが分かれば、より良いケアに役立てられるでしょう。

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VR体験は、ダイバーシティ推進にも役立ちます。テクノロジーの力で他者の視点に立ってみることで、座学では得られない、感情レベルでの変革が進められそうです。レオパレス21でもダイバーシティ推進室を設置し、多様な働き方の実現を積極的に推進しています。

(プロフィール)
株式会社シルバーウッド
代表取締役
下河原 忠道

2000年に、高齢者住宅・施設などの企画、開発、設計及び運営を手掛ける株式会社シルバーウッドを設立。2011年、直轄運営によるサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」開設。現在設計中のものを含め、12棟の高齢者住宅の経営を行う。2016年にはVRで、認知症の人が感じる世界を垣間見ることのできるプログラムを開発すべく、「VRでの認知症体験」プロジェクトを開始。テレビなどマスメディアでも、健康・ビジネスの観点から多数取り上げられ、話題に。2017年、VRでの認知症体験が「アジア太平洋高齢者ケア・イノベーションアワード」BEST SMART CARE TECHNOLOGY-SERVICE部門の最優秀賞を受賞。2018年には、ダイバーシティ観点のVRコンテンツ3作品が「ルミエール・ジャパン・アワード2018」VR部門 準グランプリ、優秀作品賞、特別賞を受賞。一般財団法人サービス付き高齢者向け住宅協会理事、高齢者住まい事業者団体連合会幹事も務める。

株式会社シルバーウッド
http://www.silverwood.co.jp/

VR Angle Shift
https://peraichi.com/landing_pages/view/vrdiversity

レオパレス21のワークライフバランスの取り組み
https://www.leopalace21.co.jp/corporate/wlb.html

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