【前編】日本語習得支援で外国人受け入れ促進! 入管法改正で国際化が進む地域と外国人を結ぶ「多読」とは?『平易な絵本から始め、語学力の土台が築ける「多読」という学習法 〜NPO法人多言語多読〜』

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2019年4月1日、外国人労働者の受け入れ拡大を図る改正出入国管理法(改正入管法)が施行されました。
深刻な人手不足への対応策のひとつですが、これにより在留資格が拡大、新設されましたので、民間レベルでも受け入れ態勢の拡充が望まれます。
外国人の方たちが日本の社会生活に馴染みやすくするために大事なのは、日本語でのコミュニケーション力でしょう。
その一助となる「多読」という語学習得法について、NPO法人多言語多読の粟野真紀子理事長にお聞きします。

子どもが言葉を覚えるように、文字に頼らず、状況から概念として言語を身につける

Q:「多読」とは、どのようなものでしょうか。

A: 外国語を身につけようという時に、学習法は色々ありますが、まず単語や文法を暗記するところから入り、問題を解いていったりされるのではないでしょうか。日本の学校教育における英語学習では特にそうで、授業などで文章を読む時には設問となる部分だけを見て、分からないところは辞書で意味を調べたり、前後の文章から類推し正解だと思うものを当てはめたりというのが、一般的な学習方法です。
ただ、それでは英語力は身につかないというのは、多くの日本人が痛感しているところだと思います。

「多読」は、文字のほとんどない絵本を手にするところから始めます。絵で示されている状況を読み解いてから、その世界観を少しずつ言語として体にとりいれていくのです。最初は言葉が少ないので、絵を見ながら意味が理解できます。
辞書を使わず暗記もせずに、子どもが言語を獲得していくステップのようなことを行うわけです。そうして見開きに文章が1行あるものから徐々にそれが5行くらいになり、さらにページの半分ほどに文字が増え、やがて挿絵が少し入るだけのペーパーバックのようなものが読めるようになっていきます。
このようにしていくと、文字の向こうに広がる世界をちゃんと頭に浮かべられる力がつき、本来の意味での語学習得ができるのです。

Q:どのように読んでいけば良いのでしょうか。

A:「多読」の三原則というのがあって、「辞書は引かない」「分からないところは考えずに、読み飛ばす」「合わないと思ったら途中でも止め、次の本に移る」といった原則に沿って読んでいきます。
自分のレベルを気にせず、面白そうだと思った本を手にしていけば良いのです。三原則に沿って楽しく読めれば、その言語を理解して使える力が、自分の中にちゃんと蓄積されていきます。

そのようなやり方で本当に身につくのだろうかと疑問に思われるかもしれませんね。ですが、大切な言葉、基礎として知っていたほうが良い言葉というのは、頻繁に出てくるものです。
例えば「しまった!」と思った時に「オーマイガッ!(Oh my god!)」とか、「アイラブユー」など印象的な場面や感情と併せて何回もどこかで出会っている言葉は翻訳しなくても自然にわかるようになっていますよね。私自身も長年「多読」を行ってきて、辞書や暗記で覚えたのではなく、いつのまにか身についた言葉があるなと実感しています。
改めて、この言葉はいつ覚えたんだっけ?と考えてみると「多読」によるものだったりするわけですね。
また、今「多読」を指導していても、皆さん、辞書を引かなくてもちゃんと意味を理解しているのが実感できます。「多読」を理解していただくためには、一度実際にやっていただければ、その有用性が分かるでしょう。

苦手意識をなくして、読む・聴く・観るを気軽に大量に重ねるのがポイント

多読
Q:世界にはもともとあった学習法なのでしょうか。

A:英語では「エクステンシブ・リーディング(extensive reading)」といって、いろいろなものを読み広げていく学習法が各国で話題になりました。「グレーデッド・リーダーズ(graded readers)」という、レベル分けされた専用図書も大学出版局などから出されているのです。

日本では2000年頃、日本人の英語教育に足りないものとして、現在は当NPO法人の理事長で、当時、電気通信大学で教えていた酒井邦秀が、提唱したのが「多読」の始まりです。当NPO法人は日本語教師が数名集まって、外国の方が楽に読める、やさしい日本語の本をつくろうと2002年に任意団体を設立してスタートしました。日本語学校でも教科書を用いて文法や語彙を教えるのですが、ひらがな・カタカナ・漢字と3種類も文字があって、文字の面では世界でも珍しい日本語を「読む」力は、そのような学習法ではなかなか伸ばせません。そこで、日本語のレベル分け専用図書をつくることから活動を始めました。

そして2006年、最初の出版を機にNPO法人に転換し、2012年には大学を退官した酒井理事長の英語多読普及活動と合流して定款変更を行い、英語と日本語との2軸で出版や講演など、「多読」の啓蒙・普及活動に努めています。その後、韓国語とスペイン語でも「多読の会」を始めています。

Q:「Tadoku」という表記もあるようですね。

A:「多読」はまず大量に読むことから始めますが、苦手意識をなくして楽しく言語に接するという意味では、聴く・観る・話す・書くことにも通ずる考え方だと、活動を進めながら感じるようになりました。ですから、日本語の多読図書には朗読の音声資料をつけたりもしています。アニメや映画を通じても、言葉は覚えやすいですよね。そのように、多読・多聴・多観・多話・多書と、学習者にとって入りやすいところから、やさしいものにたくさん触れて身につけていくという概念として、世界に通用しやすいよう「Tadoku」という表現も用いています。

また近年、外国人の居住者や労働者、観光客が増えたとは言え、まだまだ日常的に近しく接するほどではありません。
そのようなことから、日本で英語を学習する際に、英会話を習っていても実際に英語を使用するのは、そのクラスの授業時間だけです。
ですから、英語の世界に浸かろうとしたら、まずは英語の図書が取っ掛かりにしやすいでしょう。
昨今は、付属の視聴覚教材に加えて、映画やドラマもDVDや動画配信サービスで活用しやすくなっています。

初心者から上級者まで、それぞれのレベルの本を手に、語学をサークル的に楽しく学ぶ

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Q:英語多読講座などの活動について、教えてください。

A:当NPO法人の事務所は東京都の大久保駅と東中野駅の中間に位置しており、こちらの事務所で2時間のクラスを開催しています。
受講されるのは、平日の昼間だとシニアや主婦の方、夜間は社会人が中心です。土曜日は学生もいますし、幅広い層がいらっしゃいますね。長年アルファベットから遠ざかっている方でも、絵本から始められるので取り組みやすいですし、いきなり外国人と英会話なんて無理だという方にも、丁度良い準備運動になります。また、英語の学習歴が長く、TOEICのスコアアップを目指しているのに行き詰まってしまい、何かもっと根本的な基礎力や土台づくりに「多読」というメソッドを試してみようという方も少なくありません。

「多読」のクラスはレベル分けがないので、好きな時間に通っていただけます。いろいろなレベルの方が参加されていますが、各自、毎回最大19冊まで図書の貸し出しができるので、自宅でも各クラスでも、好きな本を読んでいただけるようになっています。付属CDを聴きながら「聞き読み」する方もいますし、時には皆で5〜10分ほどシャドーイング(shadowing)をしたり「読み聞かせ」し合ったりすることもあります。

担当者は指導をするというより、その方の嗜好やレベルに合った本をおすすめしたり、多読なのに文字を追いかけて逐語訳になっていないかなどを見守っています。面白いのは、受講者同士で良かった本を紹介し合ったり、グループで一緒に読んでみたりなど、読書サークルのような雰囲気もあることです。そのような環境にいると次の本へのモチベーションも高まるし、最初は英語力向上と気負って始めた方でも楽しく、少しずつ身に染み込ませていくように土台を築かれています。

最近はAIなどの自動翻訳も身近になり、かなり精度が上がってはいますが、少し前までは単語や慣用句を辞書的に置き換えるような翻訳レベルで、おかしな日本語になっていたりしましたよね。文字面を暗記していくだけでは限界があり、生きた言語になりません。
言葉を発するシチュエーションや使われ方などを、その本の世界観の中で概念として身につけるからこそ、自然に口をついて出てくるようになるのです。苦手意識や敷居の高さを気にせず始められますから、ぜひ一度体験していただきたいですね。

後編では、日本に暮らす外国の方にとっての日本語学習の側面から「多読」の実施状況や反響、可能性などをお聞きしていきます。

(プロフィール)
NPO法人 多言語多読 
理事長
粟野 真紀子

日本語学校で日本語教師を務めるかたわら、2002年より日本語多読普及活動を始める。2003年より多読授業を始め、2006年以降、多読向け図書『レベル別日本語多読ライブラリー』(アスク出版)の執筆監修を行ってきた。2016年より新シリーズ『にほんご多読ブックス』(大修館書店)を刊行。共著に『日本語教師のための多読授業入門』(アスク出版)がある。現在、NPO法人多言語多読 理事長として国内外のセミナー等で多読普及に努めている。

NPO法人 多言語多読 
https://tadoku.org/

英語多読特設サイト 多読・Tadokuの知りたいことすべて
https://tadoku.org/english/

日本語多読特設サイト にほんごたどく
https://tadoku.org/japanese/

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